(ブルームバーグ):欧米の高級ブランドにとって、中国は数十年にわたり成長の原動力となってきたが、ここ数年は一転して販売減少に見舞われている。不動産不況で景気が打撃を受けているためだ。一方、こうした状況にもかかわらず、新興の老鋪黄金(ラオプーゴールド)は中間層を対象に指輪やネックレス、ブレスレットなど幅広い金製品を展開し、急成長を遂げている。
中国のジュエリーブランド、ラオプーの売上高は2年連続で2倍余りとなり、株価も1年前の香港上場以降、20倍超に跳ね上がっている。
デジタル・ラグジュアリー・グループのマネジングディレクター、ジャック・ロイゼン氏は「中国の消費者は伝統を重んじるブランドにますます魅力を感じている」と指摘。「ラオプーは歴史と中国の伝統工芸に根差した商品の提供で際立っている」と話す。
ラオプーの台頭は、中国発の高級ブランドへのシフトを象徴する動きとなる。かつては3万元(約60万円)のミニバンで知られた自動車メーカーの賽力斯集団(セレス・グループ)は、BMWやメルセデス・ベンツを追い抜き、今や中国で最も注目される高級車メーカーとなった。同社のスポーツタイプ多目的車(SUV)「Aito M9」は50万元を超える価格帯としては中国でベストセラーだ。
また、フランスのロレアルなど海外勢が中国市場で苦戦を余儀なくされる中、2000年創業の高級スキンケアブランド、毛戈平化粧品の昨年の売上高と利益はいずれも30%余り増加した。
5月にラオプーの商品4点を計9万元で購入した広東省在住の心理療法士、チェン・ティエンミンさん(42)は「欧米は長らく進歩と洗練の象徴とされてきた」としつつ、「欧米の高級ブランドの価格が高過ぎることが多かったことにわれわれは気づいた」と語る。
顧客層の切り崩し
09年に北京の高級ショッピング街、王府井で最初の店舗をオープンしたラオプー創業者の徐高明氏は、精巧な金線細工やエナメル光沢による多彩な色合いを施すといった中国の伝統的な技法を取り入れることを目指した。
デザインにはヒョウタンや仏教のシンボルなどの文化的モチーフを採用しつつ、マット仕上げやダイヤモンド、ルビーの装飾など現代的な要素も融合させた。徐氏は4月に開かれた株主との会合で、「当ブランドは常に伝統を守りつつ、伝統にあらがう姿勢も示してきた」と述べていた。ラオプーは今回の件に関してコメントを控えた。
現在40店舗を展開するラオプーは、今後も中国を軸に運営していく方針だが、最近ではシンガポールに出店し、東京にも進出を計画する。店舗の正面は光沢のある黒い外観で、内装は中国の伝統的な書斎を模しており、カウンターにはジュエリーが並び、椅子には上質な張り地が施されている。
休日や特別プロモーション時には行列ができることも多く、その際には待っている客にスタッフがエビアンの水やゴディバのチョコレートを提供する。ラオプーはカルティエやティファニー、ヴァンクリーフ&アーペルといったグローバル高級ブランドが店舗を構える一流ショッピングモールを中心に出店しており、顧客層の切り崩しを狙っている。
国海証券のアナリスト、チュアンチー・マー氏は「ラオプーは欧米の高級ブランドにとって重大な脅威だ」と分析する。
手頃でも高級感
カルティエやヴァンクリーフ&アーペルを傘下に持つスイスのブランド大手リシュモンのニコラ・ボス最高経営責任者(CEO)は、5月のアナリスト向け電話会議で、ラオプーは国際的な高級ブランドの文化を理解しており、「非常に独自性のある」商品を展開しているとコメントした。
同じ5月には、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのステファン・ビアンキ副CEOが中国本土の消費者の好みが変化しているとし、中国系であることから地場ブランドが急成長していると話したが、ラオプーには言及しなかった。
ラオプーの商品価格は全般的に欧米の大手高級ブランドより手頃だが、主要なラインアップは約1500-7000ドル(約21万5000円-約100万円)で、3万5000ドルを超えるような高級品もある。一般的なショッピングモールのジュエリー店と比べると価格は明らかに高めだ。
急成長する多くのブランドと同様、中国版インスタグラムとも言われる「小紅書」で大きな支持を得るラオプーは、不動産不況で購買力が落ちた消費者の間でも注目を集める。
モルガン・スタンレーのアナリストらは5月、「ラオプーは大衆ブランドより格段に高級感がありながら、大半の高級ブランドよりも手頃という絶妙な位置に付けている」と評価した。
最大のリスク
モルガン・スタンレーによれば、ラオプーの昨年の中国売上高はカルティエの半分以下にとどまったものの、ヴァンクリーフ&アーペルを上回った。
さらに、ラオプーの成長率は大手高級ブランドに比べて際立ち、同じロケーションで複数店舗を展開するケースもある同社のモール当たりの売上高は、多くの欧米ライバルをしのぐ。24年の売上高は前年比168%増を記録し、リシュモンの大中華圏の売上高が3月までの1年間で23%減少したのとは対照的だ。
金価格が着実に上昇しており、ラオプーの商品も不確実な時代の資金の振り向け先として注目されている。しかし、見方を変えれば、ラオプーにとってこれが最大のリスクとなる恐れもある。金相場が今後下落すれば、価値の保全手段としての魅力を失う可能性もある。
ラオプーは今年、6000店超を抱える老舗チェーンである周大福を抜き、時価総額で中国最大のジュエリーブランドとなった。だが、同社の成功モデルは知られるようになっている。周大福はすでに伝統的な金細工ジュエリーを打ち出し、他の中小ブランドもラオプーを模した路線を採用しつつある。
中国市場で優れたアイデアが模倣されるのに時間はそれほどかからない。ラオプーも今後、国内のライバル企業との競争激化に直面することになるだろう。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:Chinese Jeweler Laopu Undercuts LVMH, Cartier to Win Customers(抜粋)
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