米連邦最高裁が中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国内での使用禁止措置について1月に審理した際、その影響はソーシャルメディア全体に広がった。

最高裁が禁止を支持し、同アプリが米国内で一時的に使用できなくなる前から、推定で200万人のTikTokユーザーが別の中国SNSアプリ「小紅書」に移った。米国では英語名の「レッドノート」で知られている。美容に関心の高い一部ユーザーにとって、そこで得た発見は大きかった。

「レッドノートには、米国ではまだ使われていない美容の秘密がたくさんあると気付いた」と語るのは、1月に小紅書を利用し始めたシカゴ在住のTikTokクリエイター、ヘイリー・レイン氏だ。

同氏は今もこの2つのSNSを使っている。トランプ大統領はTikTokについて、米事業売却の猶予期間を延長した。

レイン氏は1月、中国の美容インフルエンサーの間で人気のワントーンで仕上げた艶肌メイクを再現する動画を投稿。フェイスパウダーと鮮やかなピンクのチークを使ったその動画は、30万件の「いいね」と230万回の再生を記録した。

こうした注目は、中国発のいわゆる「Cビューティー」ブランドにとって追い風となっている。例えば「ジュディードール(Judydoll)」は2017年に中国で事業をスタートし、21年にはアジア各地の小売市場に参入した。

親会社ジョイ・グループのグループ戦略ディレクター、ステファン・ホアン氏によると、同ブランドの売上高は24年に3億4500万ドル(約500億円)に拡大。23年は2億3200万ドルだった。

24年の海外小売り売り上げは400%増だ。具体的な海外売上高は非開示だが、「Shopee(ショッピー)」や「TikTokショップ」など、消費者に商品を直接届けるオンライン販路が奏功したという。

「ソーシャルメディアは、信頼性の構築に大きく寄与した」とホアン氏は言う。ジュディードールのハイライターコントゥアパレットは17ドル。「抖音ルック」に挑戦するTikTokユーザーが競って投稿する動画で使われている。

「抖音」は中国でのTikTokの名称。抖音ルックは、陶器のような肌やバラ色の頬と唇、そして繊細な黒いまつげが特徴だ。

カナダのトロントに住む美容インフルエンサー、ジェン・ツォ氏は「西洋の美容市場には、マットなハイライトという概念があまりない」と指摘する。抖音で紹介された動画をインスタグラムで見てジュディードールのパレットを購入したという。「これこそがポイントだ」と話す。

ジュディードールの「カーリングアイロン」マスカラについて熱心に語ったユーザーの動画も数百万回再生された。14ドルのこの商品は23年以降で全世界で800万本余り売れている。一般的なプラスチック製ブラシではなく、細いスパイラル状の金属チューブが採用され、まつげを繊細に分けて持ち上げる性能が高く評価されている。

インスタグラムで1900万人のフォロワーを持つオランダの美容インフルエンサー、ニッキー・デ・ヤーヘルドローサース氏は1月に投稿した動画で、「なぜ今まで出会えなかったのか」と絶賛した。

  • TikTokの動画:https://www.tiktok.com/@nikkietutorials/video/7319193929566407968

TikTokを通じた拡散が本格化する前から、Cビューティーは海外市場で徐々に存在感を高めていた。

23年9月には中国の化粧品ブランドの「花西子(Florasis=フローラシス)」がパリの百貨店サマリテーヌ・パリ・ポンヌフに初の欧州カウンターを開設。LVMH傘下の高級百貨店との提携は、中国の化粧品メーカーとして初の試みだったと、同社のグローバル市場部門プレジデント、ギャビー・チェン氏は振り返る。

欧米の消費者は、自然や神話などの中国伝統文化をあしらった花西子のパッケージにも魅力を感じている。例えば、鳳凰(ほうおう)の彫刻が施された9色入り59ドルのアイシャドーパレットは、23年に美容・ファッション誌アリューアのベストビューティー賞を受賞し、今年はマリ・クレール誌のベスト高級パウダーアイシャドー賞に選ばれた。

また、46ドルのクッションファンデーションはベトナムのTikTokショップでビューティー部門の売り上げトップ3に入った。フォロワー数10万4000人のシンガポールのクリエーター、ダニエル・チャン氏は「正直、これまで使ったCビューティーのクッションの中で最高の商品の一つ」と評価。5月に投稿した動画で、「肌に合うしっとり薄付きなテクスチャー」とコメントした。

  • TikTokの動画:https://vt.tiktok.com/ZSkyaWoBh/

花西子は詳細な財務情報を開示していないが、19年以降は毎年2桁成長を続けているという。今年2月にはアラブ首長国連邦(UAE)を拠点とする高級品に特化した電子商取引プラットフォーム「Ounass(オウナス)」にも出店し、中東での小売り展開を進めている。

オンライン販売に依存しているとはいえ、チェン氏もホアン氏も、トランプ米大統領が中国からの輸入品に課す関税が大きな影響を及ぼすとはみていない。

チェン氏は「もともと米国だけでなくグローバル市場を重視してきたおかげだ」と説明。「コストは増えるが、グローバル戦略が変わることはない」と言う。

Cビューティーのブランドが注目を集めている現象について、中国のソーシャルメディアコンサルティング会社ワイ・ソーシャルを創業したオリビア・プロトニック氏は、以前は低品質と見なされていた中国製品のイメージの転換を示唆していると分析。

特に花西子の商品は投資する価値のあるアイテムとして見られており、「ソーシャルメディア時代に合った製品デザインを非常にうまく実現している」との見方を示した。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:Chinese Makeup Brands Are Winning Over Global Consumers(抜粋)

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