スコットランドのハイランド地方を時速約100キロ超で走る列車「ベルモンド・ロイヤル・スコッツマン」の車内を、ロングドレスに身を包みふらつきながらダイニングルームへと進む。

たどり着くと、16人ほどが着席できる長いテーブルに特注の食器が並び、ホタテや柔らかな牛肉の料理が供される。スーツ姿のウエーターたちは、揺れる車内でも脚の長いクリスタルグラスに一滴もこぼさずシャンパンを注ぐ。

ロイヤル・スコッツマンでの演奏と車窓からの風景

最初は揺れと格式の高さに緊張したが、高級列車のリズムにはすぐに慣れる。廊下は狭く、少し堅苦しい雰囲気もあるが、乗車初日の夜には2020年代半ばに鉄道人気が再燃した理由を実感した。

寝台列車に乗るのは「今できる最も現実的なタイムトラベルかもしれない」と語るのは、旅行会社フォラの共同創業者、ヘンリー・バスケス氏だ。フォラでは23年以降、高級列車の予約需要が300%増えたという。列車の旅は、全て手配済みの旅でゆったりと過ごしたいという人々の欲求に応えてくれる。陸上を行くとても洗練されたクルーズのようだ。

今回私が体験したのは、スコットランドのロイヤル・スコッツマンと、イタリアを走る「ラ・ドルチェ・ビータ・オリエント・エクスプレス」の2路線。どちらも周遊型で、前者はエディンバラ発着、後者はローマを起点とし、途中で小さな町に立ち寄る。

高級列車の魅力は、1920年代風の雰囲気を楽しむだけではない。手間がかからず、乗客同士の交流も生まれやすいため、極めて没入感のある旅ができる。乗客数は最大で約36人と限られており、自然と親しくなれる。

ドルチェ・ビータの車内で出会った米国人男性は、既に「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」に6回乗車したという。この男性はワインを傾けながら、必要なのはただ座って旅を楽しむことだけで、夕食のために車を運転することもなく、観光の計画を立てなくてもいいと語った。

ローマに新設された「オリエント・エクスプレス」ブランドのホテルに泊まり、そのまま列車に乗ることも可能だ。

エディンバラのウェイバリー駅では、スコッツマンに乗車する人々をバグパイプ奏者が先導してくれる。その様子を見物人が撮影する。

ロイヤル・スコッツマンの私の部屋は大学の寮よりも狭かったが、床暖房、ディオールのバスローブ、金色の読書灯、小さな書き物机など、ぜいたくが詰め込まれていた。

一方、ドルチェ・ビータはモダンな内装で、ミラー張りの壁、オレンジの模様のソファベッド、ロンドンの自宅よりも水圧の高いシャワーが備わる。

両車両ともテレビはなく、電話の電波も不安定だが、窓から広がる北海やトスカーナの景色は絶えず魅力的だ。

キャビンの料金は驚くほど高額で、ロイヤル・スコッツマンは2泊で5300ポンド(約105万円)、ラ・ドルチェ・ビータは5100ユーロ(約86万円)から。ただし、料金には豪華な食事や飲み物、車内エンターテインメントも含まれている。

列車を降りてのツアーも付いており、スコッツマンではケアングームズ国立公園での「森林浴」が体験できる。ドルチェ・ビータではベネチアのマリアノ・フォルチュニ美術館の貸し切り見学や、シエナの職人文化を訪ねるツアーがある。

ドルチェ・ビータである夜に供されたサフランリゾットやローマ名物のパスタ、カチョ・エ・ペペは、ローマの三つ星レストラン「ラ・ペルゴラ」の料理長ハインツ・ベック氏の監修。

新たに出会ったロシア人乗客は私が米国人だと知って、「国同士は仲良くないけど、私たちは友達になれる」と笑顔で話した。

食後は、サロンカーでの深夜のライブ演奏を楽しむ。ほとんどの乗客が睡眠より夜更かしを選ぶ。

実のところ、寝台列車のベッドは快適でも、揺れに慣れるには時間がかかる。スコットランドの朝5時にはレール音で目覚めるが、窓の外に広がる子羊の群れを眺める時間は、どんな睡眠よりも癒やしになる。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:Europe’s New Wave of Sleeper Trains Are Next-Level Luxury Trips(抜粋)

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