(ブルームバーグ):トランプ米政権は人種的マイノリティー(少数派)の学生に利益をもたらす大学のプログラムや慣行を終了させようと、非公表で手段を検討している。この措置については擁護派・批判派の両方が、かつてない影響の大きさを認めている。
ブルームバーグ・ニュースは11日、人種を考慮した入学選考や奨学金制度などのある大学を対象に、米財務省が内国歳入庁(IRS)の指針を変更し、非課税資格の剥奪を可能にする措置を検討していると報じた。
実行されれば、政権による高等教育の再構築は、ハーバード大学やコロンビア大学との表立った対立をはるかに超えるものとなる。非営利法人としての地位は、裕福な名門校から小規模校に至るまで、全米1500校以上の私立大学・カレッジにおいて財政基盤の中核を成す。非課税資格が取り消されれば、数十億ドル規模の追加課税の脅威にさらされるだけでなく、長年にわたって大学の設立や拡大を支えてきた、慈善寄付のパイプラインが断たれることにもつながる。

保守的な思想を支持してきた団体ですら、今回の動きには驚きを示している。
米国理事・卒業生協会(ACTA)のアーマンド・アラクベイ戦略担当上級副会長は「このようなことは見たことがない」と語る。多くの大学にとって「非課税資格の喪失は存続を脅かす問題だ。こうした大学は慈善的支援に大きく依存している」と述べた。
非営利法人資格は、大学が法人所得税を免除されるだけでなく、固定資産税の軽減や、利子が非課税となる債券の発行を可能にし、借り入れコストを削減できる。寄付者は自らの税負担を軽減できるため、寄付金の増加も期待できる。
米財務省の担当者はコメントを控えた。IRSも問い合わせに回答していない。
大打撃
ハーバード大学のような資金力を持たない多くの大学は、非課税資格を失えば運営継続は極めて困難となり、政権の要求に従わざるを得なくなるのが実情だ。
大学側も自らの非課税資格が脅かされていることを、認め始めている。デューク大学の学長は今月、支出削減の取り組みに関する公的報告の中で「われわれの非営利資格に対する脅威」に言及した。エモリー大学やノースウェスタン大学も債券発行資料の中で同様のリスクに言及している。
IRSの法務顧問室での職歴があるピッツバーグ大学のフィリップ・ハックニー教授(法学)は、 富と教育における歴史的な格差を是正しようと少数派グループを支援してきた学校が、むしろその努力によって罰せられる結果になりかねないと指摘する。
同氏は「慈善の概念には、差別を是正するという考え方が長く含まれてきた。私たちはその考えを土台に制度を築き上げてきたのに、それら全てが間違っていたとするのは論理的な整合性を欠いている」と述べた。
今回の提案はIRSの歳入手続きとして、米財務省の税政策局で検討されており、議会の承認を必要とせずに施行される可能性がある。
割れる見方
米政権のこの方針を巡る報道は、高等教育における多様性、公平性、包摂性(DEI)プログラムの廃止を求める保守系活動家の一部に歓迎された。
DEI廃止運動の代表的存在であるクリストファー・ルフォ氏は「人種に基づいて差別する大学から非課税資格をはく奪する方針を、財務省は絶対に実行するべきだ」とソーシャルメディアの「X(旧ツイッター)」に投稿した。
ACTAもこれまで、大学のDEI政策や、人種など保護される属性に配慮した雇用慣行を批判してきた。だが非課税資格を政治的手段として使うことは「パンドラの箱」を開くようなものだとアラクベイ氏は指摘。将来の政権が自らの意向を通すために乱用する危険性があると、批判している。同氏は「税法を他の公共政策の執行手段として使うことには、非常に慎重であるべきだ」と語った。
一方で、IRSがより積極的な役割を持つことに期待を寄せる声もある。
ヘリテージ財団教育政策センターの客員研究員アダム・キッセル氏は「この政策の適用範囲が人種にとどまらず」性別やジェンダーアイデンティティーなどにも広がるのは「非常に自然な流れに見える」と述べた。
実現可能性
実際にIRSが大学の非課税資格を取り消すには、監査や是正の機会、異議申し立て、裁判での争いなど長期間にわたる確立された手続きを経る必要があり、数年を要する可能性が高い。
ピッツバーグ大のハックニー教授によると、IRSの内部指針が変更されたとしても、大学の非課税資格を取り消すには法律に基づいた正当な根拠が必要になる。トランプ氏の見解とは裏腹に、DEIに関する取り組みが違法または違憲であると議会や司法が広く認定したわけではないとも、ハックニー教授は指摘した。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校のロースクールで上級研究員を務めるエレン・アプリル氏は、DEIを糾弾するトランプ氏の姿勢が「公共政策の基本原則」に当たると主張するのは難しいとみている。
アプリル氏は「反DEI政策は、トランプ氏が2期目に就任して以降数カ月の間に初めて登場したに過ぎない。全ての非営利団体が政権の新たな方針に適応しなければならないとしたら、その混乱は想像に難くない」と語った。
原題:Colleges Face ‘Existential’ Threat in Proposed IRS Rules on Race(抜粋)
--取材協力:Todd Gillespie、Laura Davison.
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