ロンドンの金融街シティーで、多様性・公平性・包摂性(DEI)を巡る世界的な議論の再構築を目指す取り組みが進んでいる。属性よりも多様な経験に軸足を置くべきだとの新たな研究が示された。

英国の投資や貯蓄、運用業界の包摂性を焦点とする「ダイバーシティー・プロジェクト」が9日発表した報告書によると、より多様な視点や経歴、スキルを持つ人材をそろえることで、運用チームのパフォーマンスが向上する可能性があるという。

トランプ米政権によるDEIプログラム排除を受け、世界中の企業が施策を見直している。米政府と取引のある企業の多くは、財務的な影響を警戒し取り組みを後退させているが、国際的な圧力にもかかわらず欧州の企業はDEIをほぼ維持している。

直接得た知見と学術文献のレビューを組み合わせた今回の研究では、年齢や性別、人種などの人口統計学的な特性と同様、多様な学歴や職歴から生じる「コグニティブ・ダイバーシティー(認知多様性)」について、効果的に管理すれば投資の場面で大きな価値を生み出すことができるとの見解が示された。

ダイバーシティー・プロジェクトのチェアを務めるヘレナ・モリシー氏は、ブルームバーグ・ラジオで「一つのグループやあるタイプの人材しか採用しないなら、最適なチームはつくれないということは直感的に分かる。世界金融危機でもそれは明白だった」と分析。「多様性こそが実力主義を促すということだ」と話す。

モリシー氏は、この取り組みによって英金融セクターにおけるDEIの議論がリセットされることに期待を示している。ダイバーシティー・プロジェクトは金融業界でのキャリア・アクセスを広げ、女性参画の促進を後押ししてきたが、シティーの金融従事者の大多数を男性がなお占めている。

今回の報告書の主要な結論の一つは、企業が包摂性をより強調する必要があり、多様性の導入だけで済ませてはならないという点だ。企業は採用時に幅広く人材を募集し、職場における多様性をイノベーションのけん引役として位置づけるべきだと提言している。

この研究を実施したロンドン・ビジネス・スクール(LBS)のアレックス・エドマンズ教授(金融学)は、「コグニティブ・ダイバーシティーは確かに多大な効果をもたらす可能性があるが、管理は困難であり、心理的安全性や包摂性の文化によって支える必要がある」と指摘。「成功する組織は、大きな競争優位性を享受するだろう」と述べた。

原題:New Push to Reframe DEI in London Shifts Away from Diversity(抜粋)

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