高止まりが続くコメ価格を巡る問題は、不用意な発言をした江藤拓前農相が辞任する事態となり、政局に発展した。価格高騰対策は夏の参院選の争点に浮上している。局面打開を急ぐ石破茂首相は小泉進次郎氏を農相に起用し、政権の命運をかけてコメ市場に立ち向かう。

小泉農相は21日夜、「今最も力を入れなければならないのはコメ、とにかくコメに尽きる」と記者会見で述べた。経済状況を踏まえた適正価格を意識しつつ、消費者の「感覚に寄り添っている価格にどこまで近づけるか」が重要だと語った。

江藤氏の「コメを買ったことがない」との発言は物価高に苦しむ国民からの反感を呼び、野党5党は一致して農相の辞任を要求。少数与党の石破政権は当初、続投させる方針だったが、一転して閣僚交代を迫られた。大臣辞職に至った一連の騒動は、コメ価格の高騰に対する国民の強い不満を反映したものだ。高止まり状況が続けば参院選の結果に影響を与える可能性もある。

フィリップ証券の北野一日本株チーフストラテジストは、コメ価格の高騰がなければ江藤氏の発言は大きな波紋を呼ばなかっただろうと指摘。江藤氏が自らの発言で辞任に至ったことは、コメを巡る「エモーショナル度合いの大きさを示している」と語った。

報道各社の世論調査では、石破政権の内閣支持率は昨年10月の就任以来、最低水準まで下落した。コメ価格高騰が主要因の一つとなっている。読売新聞が最近行った調査では、コメ価格高騰に対する政府の一連の対応について、78%が「評価しない」と回答。朝日新聞の調査では、コメの値下がりに「期待できない」と答えた人は69%に上った。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは、コメ価格が高止まりしたままで参院選に突入すれば、自民党にとって「ウイークポイントになる可能性が高い」と述べた。首相が当初は江藤氏を続投させる方針を示していたことに関しては「世論の反応がかなりきつかったので、そこを見誤った」と指摘し、対応が遅れた分、求心力の低下に結びつくとの見方を示した。

高止まり

コメ価格急騰の背景には、コロナ禍で落ち込んだ需要の回復や南海トラフ地震臨時情報の発令をきっかけにした受給ひっ迫がある。政府は新米が市場に出回れば価格は落ち着くとの見方を示していたが、価格低下の兆しは見えず、政府は2月に政府備蓄米の放出に踏み切った。

4月には夏まで毎月放出することを決定したが、コメ価格は下落の気配を見せていない。むしろ、コメ価格の伸び率は6カ月連続で過去最大を更新。3月にコメ類の価格は前年同月比92.1%上昇と、比較可能な1971年1月以降で最大の上昇幅となった。

東北大学の冬木勝仁教授は、3月に業者間の取引価格は一時下落したが、備蓄米放出はあまり効果がないと市場が判断し、4月に上昇したと述べた。業者が供給過多を見込んでいないため販売戦略として価格を下げることはできない状況だと指摘し、「新米がちゃんと供給されるというメッセージを国が出さないと本格的には下がっていかないだろう」との見方を示した。

石破首相は21日の党首討論で、コメ5キロ当たりの価格について「3000円台でなければならない。4000円台などということはあってはならない」とし、一日も早く実現すると強調。「責任を取っていかなければならない」とも述べた。

新大臣

価格高騰の背景にはサプライチェーンの混乱がある。昨年のコメの収穫量が増加したにも関わらず、農家からコメを買い取る業者の購入量は減少。日本国内の米価が上昇する一方、アジアの基準価格は今年13%下落している。

米国は日本に対し米国産コメの関税引き下げを迫っているが、自民党の主要な支持層である農業団体などからの反発は強い。5月15日に赤沢亮正経済再生担当相と面会した全国農業協同組合中央会(JA全中)の山野徹会長は、特に主食であるコメの輸入拡大は「将来の食料安全保障の確保に大きな禍根を残し、わが国の国益を損なう」とする要望書を手渡した。

関税交渉のカードとしてコメの輸入を拡大する案も報道されている。小泉農相は21日の記者会見で、「交渉の責任者にできる限りのフリーハンドを与えることは大事」と述べた上で、「決して農業を犠牲にしないとの思いを持ちながら、トランプ政権との関税交渉に臨んでいただきたい」と要望した。

石破首相は、価格競争入札で売り渡していた政府備蓄米を、随意契約で売り渡すことを検討するよう小泉農相に指示。小泉農相は来週予定していた備蓄米の4回目の入札を中止し、「ゼロベースで新たな制度を考えるように指示を出している」と抜本的な改革を行う意向を示した。その上で、「その結果責任を負うのも政治の役割だ」と語った。

--取材協力:エディ・ダン.

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