AIの規則作りに走る欧州、開発促進に動く米国

AIは生成AI、AIエージェント等急速な発展を遂げ、私たちの生活や社会に大きな影響を与えつつある。一方、AIを受け入れるための社会づくりも政策面等で進んでいるが、そのスタンスには世界の各地域で違いが見られる。

EUはAIの規則作りを世界に先駆けて進めることで、規則面からAIに関するイニシアチブを握ろうとしているように見える。

2024年8月に発行されたEU「AI規制法」(2026年8月から全面施行)では、AIがその特性別にカテゴライズされ、リスクレベルに応じた規制が織り込まれている。

EU市場に関係する日本企業をはじめ、EU域外企業が提供するAIも規制の対象となり、違反時には全世界売上ベースでの制裁金が課されることになる。

生成AIに対する規制等も追加された。その他、一般データ保護規則(GDPR)といったデータ関係の法規制整備等もハードローにより進めている。

一方で、米国は従来の規制強化から、民間による開発を促進する方向に政策を転換した。国家的にAIの開発や活用を進める中国等の動きもある中で、日本のAI活用に関する法制度等の社会的整備が求められていた。

日本では罰則なしの基本法としてのAI法が成立

このような中で、日本では「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下AI法)が2025年5月に成立した。主なポイントは以下の通りである。

ポイント1:基本理念の提示
AI関連技術を「経済社会の発展の基盤となり、安全保障の観点からも重要な技術」として明確に位置づけた。この基本理念のもと、日本の研究開発能力の保持と産業の国際競争力向上を図ることを掲げた。また、基礎研究から活用に至るまでの取り組みを総合的かつ計画的に推進することが定められた。

ポイント2:各主体の責務の明確化
AI技術の推進に関わる各主体の責務を明確に規定。国は基本理念に基づき、AI関連施策を総合的かつ計画的に策定・実施する責務を負う。

地方公共団体は国との適切な役割分担のもと、地域特性を活かした自主的な施策を実施する責務を持つ。活用事業者は国や地方公共団体の施策に協力する義務が課され、国民にはAI関連技術への理解と関心を深める責務を求めている。

ポイント3:AI戦略本部の設置
重要な柱として、内閣に「AI戦略本部」を設置することを定めた。この戦略本部は、内閣総理大臣を本部長とし、内閣官房長官およびAI戦略担当大臣を副本部長として、全ての国務大臣が構成員となる組織。AI関連技術の研究開発・活用推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進する司令塔的役割を担う。

ポイント4:AI基本計画の策定
政府には基本理念に基づき、AI関連技術の研究開発・活用推進に関する基本的な計画を策定することが義務づけられた。

基本計画には、基本方針や政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策が盛り込まれ、閣議決定・公表の手続きが規定されている。計画は国際動向や社会経済情勢の変化を踏まえて策定される。

ポイント5:国による調査研究と指導権限
AIの不正な目的または不適切な方法による利用によって国民の権利利益への侵害が生じた場合、国が調査・分析を行う権限が規定。調査結果に基づき、研究開発機関や活用事業者に対して指導、助言、情報提供などの必要な措置を講じる。

悪質な事案については、事業者名の公表も可能とされた。ただし、これらの調査は事業者の協力に基づくものであり、罰則を背景とした強制的な調査ではない。

ポイント6:ソフトロー的アプローチ(罰則規定の不在)
大きな特徴は、違反に対する罰則規定を設けていないこと。「ソフトロー」的なアプローチと呼ばれ、法律のような直接的な強制力や罰則ではなく、指導や公表等のソフトな手法によって対応することを意味する。これは、EUのAI法のような規制重視のアプローチとは異なる、日本独自の手法といえる。

(出所) 第一生命経済研究所作成

AI法は「AI技術活用・推進法」とも呼ばれる通り、AIの活用推進に力を入れた内容となっている。従って、EUのAI法とは異なり罰則規定はない。

一方で、官民の役割分担や「AI戦略本部の設置」「AI基本計画の策定」等の政府の役割について記載しており、EUのAI法とは異なる基本法的な性格を持っている。

日本でのAIガバナンスはガイドライン等のソフトローで、各業界の対応に注目

ポイント6に記載の通り、日本はソフトロー的なアプローチを採るため、実際のAIの活用に関するルールは、ガイダンス等の強制力のない規定で定められることとなる。

実際に政府は、AI法成立後、人工知能戦略本部で「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」の案を策定、パブリックコメントに付した後、2025年12月19日に決定した。

AIガバナンスを構築・運用するのは活用事業者・研究開発機関であり、実際には活用する各業界でガイダンス等が策定されることが想定される。今後の各業界、特に人命に関わる業務を行う業界や大量の個人情報を扱う業界での、AI対応検討が注目される。

※なお、記事内の「図表」に関わる文面は、掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 総合調査部 政策調査G 研究理事 重原 正明)