米国車と日本市場
かつて年配の米国人がこう語っていた。1980年代くらいまで米国車は故障することが多かった。しかし日本車は故障しないので一度乗ったらやめられない。その後、何度も日本車を買い替えたが米国車に戻るつもりは全くない、と。
筆者は10年近く前まで、米国内の出張の際は到着地の空港からレンタカーで動いていた。おそらく下取り価格が高いからであろう、レンタカーで日本車に当る機会は非常に少なく、結果として多種類の米国車を運転してきた。さすがに故障することは一度もなかったものの、使い勝手がよいとも言えない。あえて米国車の印象を総括すれば「でかくてがさつ」、ユーザーフレンドリー感に乏しい。左ハンドルを右ハンドルに変えたところで、わが国で売れるようには思えなかった。
現在、トランプ政権による関税政策が世界を揺るがしている。わが国に関してはトランプ大統領より「日本では米国車が走っていない」といった指摘がなされている。自動車の輸入に関税は課されていないため関税が米国車を日本市場から締め出しているわけではないし、実際にも米国車の輸入が皆無というわけでもない。とはいえ安全基準という非関税障壁ゆえにわが国では米国車の輸入が阻害されているといった主張である。
トランプ大統領の言及する安全基準が正しい理解に基づくものかは疑わしいところであり、わが国では、そもそも米国車は日本市場で売れるような努力をしていない、端的に言えば日本市場で売れるだけの魅力がないからだ、米国車の輸入が僅少であるのは当然の結果に過ぎないとの反応が見られる。筆者自身も先述した自身の経験から、その反応には強く同意するところながら、一つ気になる点がある。現在をそのように語る人たちは、将来も米国車がわが国で売れることなどないと高をくくっているように感じられることだ。
ダイソンの躍進
筆者は20数年前、初めて米国に引っ越した。わが国で使っていた家電製品は持って行っても使えないので倉庫に預け、現地で家電製品を調達することになったのだが、その中に掃除機もあった。当時のわが国の掃除機は主にキャニスター型と呼ばれるもので、掃除機本体に車輪がついて動くため、重いと感じることは少なかった。
ところが米国の家電量販店に行ってみるとスティック型という縦長の構造のものばかりで、その中から手ごろな価格のものを選んだ。画像はChat-GPTに作らせたイメージだが、実際に筆者が購入したスティック型の掃除機は基本構造が同じでも質感はこの画像の3~4倍くらいあったと記憶している。
これがとにかく重い。米国の住居はわが国のそれよりも広いのだから強い吸引力が求められることは理解しうるものの、高齢者だけで住んでいる家庭だってあるだろう。ユーザーに老若男女がありえることを想定していない「でかくてがさつ」な製品と感じた。
ジャパンアズナンバーワンの時代はとうに過ぎていたけれど、まだバブル崩壊から10年ほどしか経過していない時期である。家電製品は日本製がよいはずという先入観もあって、こんな掃除機、日本市場では1台も売れないだろうな、と思ったものである。
その掃除機のメーカーはダイソンといった。
それが今や、筆者の行く家電量販店の掃除機コーナーで最も広い売り場を誇っているのがダイソンである。もちろん今の製品は同じスティック型とはいえ往時とは全く違う。細く軽くスタイリッシュでコードレス、気軽に持って掃除をしようとする気になれる。筆者の過去の経験からは、あのダイソンがいつの間にか日本市場に参入して、わが国の掃除機メーカーのシェアを奪ったという事実は驚愕の他ないのだが、相応の商品開発と営業努力をした成果なのだろう。ダイソンは厳密には英国の会社だが、シャークという米国のメーカーも同じくスティック型掃除機で家電量販店の中に広い売り場を持っている。少なくとも掃除機に関して米国製品はとうに「でかくてがさつ」から脱却していたということだ。