台湾ドルは5日の取引で一時5%上昇し、取引時間中としてはここ30年余りで最大の上げを記録した。輸出業者が保有する米ドルを急いで台湾ドルに交換しようとしているとの観測が広がった。

台湾ドルは対米ドルで一時1米ドル=29.59台湾ドルと、約3年ぶりの高値を付けた。台湾ドルはこの1カ月で約11%上昇している。この日の日中上昇率は1988年以来の大きさとなった。

半導体の受託生産大手、台湾積体電路製造(TSMC)の株価は約1.3%下落。通貨高による輸出収益への悪影響が懸念された。米ドル安を受けて、台湾の生命保険大手が保有する米国債券の為替ヘッジを強化するとの観測も、台湾ドルの上昇に拍車をかけた。

米台間の貿易合意の一環として、台湾ドル高を容認する方向へ政策修正が行われるとの思惑も浮上している。トランプ米大統領は、米国の競争力強化のため、ドル安を支持する姿勢をにじませている。

こうした中、台湾中央銀行の楊金龍総裁は同日、緊急会見を開催。アナリストらに対し、外国為替市場について「臆測的なコメント」を控えるよう促した。ここ2日間の急激な通貨高については、市場のうわさが一因とし、無責任な臆測を控えるよう呼びかけた。

輸出業者が台湾ドルを買っている理由の一つは、米国との貿易合意を目指す台湾当局が通貨高を容認するとの見方があることだ。行政院は3日、台湾代表団が1日に米国と1回目の協議を行ったと発表したが、詳細は明らかにしていない。

台湾は米財務省による為替政策の「監視リスト」の対象になっており、台湾ドル高は米国との通商協議で交渉材料の1つともなり得る。

アジアで有数の米国債保有者である台湾の生保勢が為替ヘッジをすることで、上昇に拍車がかかっているとの見方もある。台湾の保険会社が保有する米債券(米国債や社債)の多くは、為替ヘッジが一部のみ、または全く行われておらず、ドル安が進めば損失を被る恐れがあるためだ。

為替ヘッジは通常、多くのコストがかかるため、生保のような投資家がヘッジを敬遠する一因となっている。近年は米ドル高の恩恵によってヘッジを行わない生保の取引戦略は奏功していたが、足元のドル安進行で損失やキャッシュフロー上の問題に直面するかもしれない。バンク・オブ・アメリカ(BofA)の分析では、台湾の生保勢よる為替ヘッジの割合は昨年末時点で約65%にとどまり、過去最低水準に近いと推定されている。

事情に詳しい関係者によると、台湾金融監督管理委員会(FSC)は、生保に対し、急激な台湾ドル高が業務に与える影響について意見を求めた。会合は5日午後、台北市内で行われた。

BNPパリバの大中華圏為替・金利戦略責任者、王菊氏は「現地の輸出業者はパニックに陥っている。株式絡みの資金流出は和らいだものの、台湾の生保企業のヘッジはまだ不十分だ」と指摘。「中銀は依然として唯一の買い手だが、積極的に市場を下支えしておらず、通貨のバリュエーションが貿易協議の一部だとの臆測を呼んでいる」と述べた。

ここ数週間、アジア通貨は全般的に上昇基調にある。トランプ大統領の関税政策が米経済に打撃を与えるとの懸念から、米ドルが弱含んでいることが背景にある。

 

原題:Taiwan’s Markets Jolted as Currency Surges Most Since 1980s、Taiwan Regulator Summons Life Insurers as Soaring Currency Bites(抜粋)

(詳細を追加して更新します。)

--取材協力:Shikhar Balwani、Ruth Carson.

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