金融市場に今月広がった「米国売り」の動きを受け、超長期の米国債を保有する投資家の意欲が長期にわたり損なわれることになった恐れがある。

間もなく2期目の就任から100日を迎えるトランプ米大統領は幾つもの不測の事態を招いてきた。これに伴い、ブラックロックやブランディワイン・グローバル・インベストメント・マネジメント、バンガード・グループなど各社の債券運用担当者は、今後の金利の道筋以外の広範な事柄にも関心を払わなければならなくなった。

具体的には、トランプ氏が仕掛けた貿易戦争や減税計画、二転三転する政策運営手法が既に減速しつつある景気や根強いインフレ、多額の財政赤字にどのような影響を及ぼすのか問われる。トランプ氏が再びパウエル連邦準制度理事会(FRB)議長解任の脅しに訴えるのか、積極的にドル安を求めていくのかも要注意だ。

この結果、リスクへの警戒感が高まり、債券の主要な買い手は逃避先資産とされてきた米国債の安全性に疑問を抱き、期間が長めの国債保有に対し一段と高めの利回りを要求するようになっている。その一つの指標であるタームプレミアムは2014年以来の高水準近くにある。

ブランディワインで630億ドル(約9兆560億円)の運用を担当するチームを率いるジャック・マッキンタイア氏は「新秩序」に言及。「トランプ氏が関税措置を見直したとしても、高度の不確実性は残ると考えられ、タームプレミアムも高水準のままだろう」との見方を示した。

 

もちろん、トランプ氏が日本をはじめとする貿易相手国との間で貿易協定を取りまとめるか、全面的な債券売りに懸念を示唆し続ければ、米国債を巡る不安の一部は解消されるかもしれない。こうした中、ベッセント財務長官は30日に四半期定例入札の規模を発表する予定で、さまざまな懸念を抱える投資家を安心させる課題に直面する。

一連の不確実性を背景に、マッキンタイア氏は自身のベンチマークに対しほぼ中立のポジションを保つ方針だ。さらに、景気減速時の長期国債の動向についても、一連の問題がなかった場合の想定と比べ、利回りが高めに推移すると見込んでいる。

センチメントは依然ぜい弱

それでも投資家が米国債から資金を引き揚げているわけではない。JPモルガン・アセット・マネジメントは欧州各国の政府債よりも好パフォーマンスが期待されるとみる。実際、財務省が今月行った30年債入札では、適正価格であれば十分な需要があることが示された。

入札結果を受けて買い手による米国債ボイコットの懸念が後退し、長期債利回りは最近付けたピークから低下した。

ただ、センチメントは弱いままだ。トランプ氏はパウエル議長解任の意図を否定したものの、議長を批判する発言を繰り返しており、連邦準備制度が独立性を維持することができるかどうか、投資家の一部は憂慮している。

パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)は今月のドルと米株価、国債相場のトリプル安について、新興国市場を想起させるものだと指摘する一方で、米国債の購入は継続。ただし、現在は5-10年債を選好して、買い入れ対象とする国債の年限に上限を設けている。

このほか、米財政赤字の拡大で国債発行が増えた場合、タームプレミアムが一段と拡大する余地があると、バンガードのシニア債券プロダクト・マネジャー、レベッカ・ベンター氏は分析。今年の米成長率が1%未満と20年以来の低水準にとどまると予想し、「米財政赤字には良い兆候ではない」と指摘した。

米政府の利払いが年間1兆ドル規模に達する状況にあって、タームプレミアムが拡大すれば財政負担はそれだけかさむことになる。

DWSアメリカズの債券責任者、ジョージ・カトランボーン氏は、トランプ政権の政策が今よりも明確になり、貿易協定で合意に達するなどの進展があれば、タームプレミアムが圧縮される可能性はあるとしつつも、「財政状況が恒常的な懸念材料となり、過去十年間のような低水準に戻ることはない」との見解を示した。

原題:Treasury Market’s ‘New World Order’ Brings Fear of the Long Bond(抜粋)

(米財政状況を巡る市場関係者の発言内容を追加して更新します)

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