先日、池袋を訪れた際のことである。
街中を歩く人々の多くが、カバンにマスコットや缶バッジなどのキャラクターグッズを身に着けていることに気づいた。
さすがは“キャラクター大国”とも言える日本であると感心したが、池袋という土地柄を考えれば、ある意味当然とも言える。
池袋にはアニメグッズの専門店「アニメイト」の1号店をはじめ、マンガ・アニメ関連の商品を取り扱うショップやカフェが多数存在し、「乙女ロード」と呼ばれるエリアも広く知られている。
また、JR池袋駅東口から徒歩4分の場所に、東京都が事業主体、一般社団法人日本動画協会が運営するアニメ専門展示施設「アニメ東京ステーション」が2023年10月に開業した。池袋は、秋葉原と並ぶコンテンツ文化との親和性の高い都市なのである。
このような背景から、アニメやマンガを好む人々が池袋に集まりやすく、キャラクターグッズを持ち歩く人の割合も必然的に多くなると考えられる。
しかしその日、自宅に戻るまで街を意識的に観察してみると、池袋に限らず、他の地域でもキャラクターグッズを身に着けた人々を多く見かけた。
ご当地キャラクターやアイドル、応援しているスポーツチームのマスコットなど、何らかのIP(知的財産)を活用したグッズが、日常的に人々の身近に存在しているのである。
店頭に並ぶキャラクター商品やポスター、広告のみならず、電車で隣に立っている人や道ですれ違う人でさえもが、無意識のうちにキャラクターの存在を他者に知らせるメディアとなっており、ある意味私たちの生活そのものがキャラクタービジネスの中に組み込まれていると言えるのではないだろうか。
コンテンツって結局何なの?
コンテンツとは、英語の “contents” に由来し、主に「情報の中身」や「内容」を意味する言葉である。
情報を伝えるための中核を成すものであり、テキスト、動画、画像といった多様な形式がコンテンツと呼ばれている。
たとえば特定のキャラクターを主題としたアニメ、マンガ、ゲーム、小説、グッズなどの一連の作品群をキャラクターコンテンツという。
また、我々が日常的に利用するSNSの投稿も、情報を含んでいるという観点からすればコンテンツの一形態であると言える。
さらには、誰かに何かを伝える手紙でさえもコンテンツとなり得る。
近年では、単なる情報提供を超え、ユーザーに体験や感情、価値を提供する仕組みもコンテンツと見なされるようになっており、遊園地のアトラクションなどは「体験型コンテンツ」と呼ばれることもある。
また、コンテンツには、複数の要素が統合された「複合体」としての側面もある。
たとえば、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに存在するアトラクション「ドンキーコングのクレイジー・トロッコ™」を例に挙げると、このコンテンツは1994年発売のスーパーファミコン用ソフト『スーパードンキーコング』というコンテンツに登場するキャラクター、「ドンキーコング」を起点として構成されている。
このコンテンツには、デザイン、名称、音楽、世界観、ストーリーなどの要素が含まれており、これらを総称してIP(Intellectual Property=知的財産)と呼ぶことができる。
IPはライセンス(使用許諾)を通じて他者に利用され、グッズ展開やタイアップ企画などによって活用される。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにとっては、このIPを用いて「ドンキーコングのクレイジー・トロッコ™」という新たなコンテンツ(商品・サービス)を提供しているということになる。
ユーザーがコンテンツの中に入るための装置と場所を提供しているとも言えるだろう。
また、「ドンキーコングのクレイジー・トロッコ™」そのものもが擁するストーリー性や演出も体験者に感情や情報を与えるコンテンツであり、一方、アトラクションを構成するローラーコースターという機械装置(ハードウェア)もまた、高低差、スピード、揺れ、などの物理的要素を通じて感情を揺さぶる、いわば「フィジカルなコンテンツ」であると言える。
ここで注目すべきは、IPというものが本質的には無形資産であるという点である。
IPは、何らかの形で表現・可視化されなければ、ユーザーと接点を持つことができない。
そのため、消費者との接触には有形の手段(商品、施設、メディアなど)への依存が不可避となる。
逆に、物理的な装置であるローラーコースターも、感情を操作するという意味ではコンテンツだが、それ単体では単なる乗り物に過ぎない。
だが、そこにストーリーや世界観といった「テーマ=コンテンツ」が加わることで、単なるハードではなく感情に訴えかける没入型コンテンツへと昇華されるのである。