トランプ米大統領が仕掛けた貿易戦争で世界の株式・債券市場が混乱するという厳しい日々が5日間続いた。その後、トランプ氏は翻意し、金融システムを危機の瀬戸際から救った。

9日のS&P500種株価指数は10%近く上昇し、ナスダック総合指数は2001年以来の大幅高となった。投資家が利下げ予想を後退させる中で、米短期国債価格は序盤の上昇から一転下げに転じた。円やスイス・フランなど安全とされる通貨が売られ、ドルが買われた。

市場全体のボラティリティーは類のないものだった。米株式市場の「恐怖指数」として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)ボラティリティー指数(VIX)は過去最大の低下となった。米国債価格も前例のない大きな値動きで推移しており、2年債と30年債利回りは7日と9日にそれぞれ0.3ポイント以上変動した。1998年に統計を取り始めてから、両債券が同時にこれほど大幅に動いたことはない。

9日の相場急反転はまたもやトランプ大統領自身が引き起こした。正午過ぎ、米国に報復措置を講じていない国・地域に対して上乗せ関税の一部を90日間停止すると突然明らかにした。

 

トランプ氏が方針を変える前には、激しい売りで世界の株式時価総額が10兆ドル(約1480兆円)強消失。米国や英国、オーストラリアなど先進国の債券市場でも不安が高まり、現金確保を急ぐ投資家が国債を投げ売りして利回りが急上昇した。

こうした市場の動きや9日のような急激な相場反転は通常なら、2020年の新型コロナウイルス流行期入りや、米住宅バブル崩壊をきっかけにしたベア・スターンズやリーマン・ブラザーズ破綻時の混乱といった危機局面しか見られない。

だが今回は、予測不可能な米大統領が世界貿易のルール変更を自力で試みていることが影響した。投資家の信頼は大きく揺らぎ、1件のSNS投稿だけでリリーフラリー(安心感による相場上昇)が吹き飛ぶ恐れがあるとの不安も残した。

ヘッジファンド・テレメトリーの創業者トーマス・ソーントン氏は「すべてが狂っている」と語った。

投資家に警戒感

ここ1週間の波乱含みの相場は、トランプ氏が約1世紀ぶりの高関税を課すと表明し、世界を驚かせたことがきっかけだ。同氏は製造業の雇用を数十年ぶりに海外から取り戻すと主張した。

だがそうした措置は、サプライチェーン破壊や国境を越えた貿易の縮小、輸入品価格上昇に伴う米消費者への新たなインフレショックを通じて、世界経済に混乱をもたらす恐れがあった。ウォール街のエコノミストやストラテジストは慌てて株価見通しを下方修正し、景気後退に警鐘を鳴らした。

ただトランプ氏が小休止したことで、そうしたリスクがなくなったわけではない。無秩序な政策実施と最終目標を巡る疑念から、企業は立案が難しく、米消費者の間で不安が広がっている。また、世界2位の経済大国である中国とは応酬が続いており、9日には対中関税を125%に引き上げた。

投資家はトランプ氏の休戦の呼び掛けを歓迎する一方、単独行動で方針がぶれやすいトランプ氏の動向に不安を募らせている。

トールバッケン・キャピタル・アドバイザーズ創業者で最高経営責任者(CEO)のマイケル・パーブス氏は「私はこの反発を売り抜ける」とした上で、「この種の双方向の変動は極めて大きいが、弱気相場では珍しくなく、底値を示唆するものでもない」と明言した。

原題:Markets Veer From Fear to Euphoria as Trump Backpedals on Trade(抜粋)

(中見出し以降を追加して更新します)

--取材協力:Esha Dey、Michael Mackenzie、Liz Capo McCormick、Isabelle Lee、Natalia Kniazhevich.

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