(ブルームバーグ):9日の米株式相場は急伸。2008年以来の大幅高となった。トランプ米大統領が米国に報復措置を講じていない国・地域に対して、90日間の相互関税一時停止を承認したため、買いが膨らんだ。
S&P500種株価指数は朝方に弱気相場の領域に入る直前だったが上げに転じ、9.5%上昇と世界金融危機以来の大幅高となった。ナスダック100指数は12%高。
米市場では300億株余りの株式が取引され、売買高は1兆5000億ドルと、2008年までさかのぼるブルームバーグのデータで過去最高を記録した。
ゼファーのライアン・ナウマン氏は「ここ1週間はジェットコースターのような展開だが、投資において確かなことが一つあるとすれば、それは市場も投資家も不確実性を嫌うということだ」と述べた。「まさにその通りとなっている。関税は予測不可能だ。この日は反発が見られた。これは本当に安心感からくる上昇で、押し目での買いだと思う」と述べた。
トランプ大統領は一方、中国に対しては関税を125%に引き上げた。米国民には冷静さを保ち、投資を継続するよう呼びかけた。自身のソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」への投稿で「今は買いの好機だ」と述べた。
F・L・パトナム・インベストメント・マネジメントのエレン・ヘイゼン氏は「長い間、このように荒い値動きは見たことがない」と語った。「一部銘柄の動きは信じられないようなものだ。これはつまり、市場が売られ過ぎの状態を示していたということだ。そのため、良いニュースの兆しが出て、相場は上昇した」と指摘。「現政権が予測不可能であることは周知の事実だ。来週の決算報告で各企業が何を語るのか、非常に興味深いものになるだろう」と述べた。
米国債
米国債相場は20年債と30年債以外が下落。長期債利回りは一時、2020年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以来の大幅上昇となったが、相場は大幅に下げ渋った。米国債は金融市場の混乱期において世界で最も安全な資産とされるが、資金が引き揚げられている。
アジアの取引時間帯では30年債利回りが一時5%を超え、その圧力は他の市場にも波及し、オーストラリアや英国、新興国市場で利回りが急上昇した。
米国の取引時間中には、株価上昇や10年債入札の結果を受けて売りは弱まった。同入札を受け、貿易戦争による混乱を理由に主要な買い手が手を引くのではないかとの懸念がいくらか和らいだ。
10年債入札(発行額390億ドル)の最高落札利回りは4.435%。入札前取引の利回り4.465%を下回った。その後、米国債は下げ渋った。
落札全体に占めるプライマリーディーラーの割合は10.7%と、今年最低を記録。一方、間接入札の割合は87.9%と過去最高となった。直接入札の割合は1.4%と過去最低。応札倍率は2.67倍。過去6回の銘柄統合入札の平均は2.59%だった。
金融システム全体で借り入れコストが上昇する中、トランプ関税が世界貿易を混乱させ、すでに景気後退のリスクにさらされている世界経済にとって、利回り急上昇はさらなる打撃となる恐れがある。中国のような重要な海外投資家が報復措置として米国債を売却するのではないか、あるいは最近の混乱で打撃を受けた投資家が資金を急いで調達しようとするため、市場が機能しなくなるリスクがあるのではないかとの懸念も残っている。
JPモルガン・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「これは経済にとって貿易戦争、不確実性、金利上昇という三重苦をもたらしている」と述べた。
外為
外国為替市場ではドルが軟調となった。円はドルに対して下げに転じた。
朝方は安全資産とされる円への逃避買いが膨らみ、一時は1ドル=144円ちょうどと、昨年10月2日以来の高値を付けた。午後に入り、トランプ大統領が相互関税の一時停止を発表すると下げに転じた。一時は148円27銭を付けた。
ノムラ・インターナショナルの通貨ストラテジスト、宮入祐輔氏(ロンドン在勤)はドル・円相場の中期的見通しについて、「米経済が後退局面に向かう場合のドルの動向に注目すべきだ」と指摘。「従来そうした局面ではドル高になる傾向があったが、トランプ政権がドル高是正を志向していることや、グローバル投資家の米証券投資への懐疑的な見方が強まっていることを考慮すると、この関係性が今後も維持されるかは不透明だ」と述べた。
同氏は関税政策による混乱で不確実性は非常に大きいとした上で、「円が主要国通貨の中で相対的に強い通貨になるとの見方を維持している」と発言。日銀が利上げサイクルにあることや日本の国際収支における円売り圧力が弱まっていく見通しを、その理由に挙げた。
米連邦準備制度理事会(FRB)が午後公表した3月18-19日開催分の連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨によると、当局者がスタグフレーション(景気停滞下の物価上昇)のリスクを指摘していたことが分かった。当局者ほぼ全員が「インフレへのリスクは上向きである一方、雇用へのリスクは下向き」との認識を示した。
原油
ニューヨーク原油先物相場は急反発。同日未明に発動した高水準の相互関税に関して、トランプ大統領が一部の国・地域を対象に90日間の一時停止を発表し、買い安心感が広がった。
早い時間には貿易戦争激化を巡る懸念から、北海ブレント先物は2021年以来初めて60ドルを割り込んでいた。
90日間の一時停止が伝わると、株式やコモディティー(商品)などの市場は急伸した。一方、トランプ氏は中国に対しては関税を125%に引き上げた。
CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「市場全般のリリーフラリー(安心感による相場上昇)で原油相場も連れ高となった。だが、原油需要拡大の主要なけん引役である中国に対する関税は引き上げられており、他の国・地域に対する関税一時停止の影響は、それに比べるとはるかに少ない」と述べた。
市場関係者はこの日に至るまで弱気なオプションや売り持ち高を積み上げており、強気な材料が浮上してショートカバーなどを誘発した場合には、反射的に値上がりしやすい地合いとなっていた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物5月限は、前日比2.77ドル(4.7%)高い1バレル=62.35ドルで引けた。ロンドンICEの北海ブレント6月限は4.2%上げて65.48ドル。
金
金スポット価格は大幅高となり、日中の上げ幅としては2020年3月以来5年ぶりの大きさを記録した。背景には、トランプ大統領の関税政策に振り回され、金融市場が不安定な値動きとなったことがある。
金スポット価格は一時、3.9%高の1オンス=3099.60ドルまで買われた。
この日は通常ならこうした金融市場の混乱時に安全資産として買われる米国債への売りが膨らみ、世界的に長期金利が上昇した。国債利回りの上昇は普段なら金に重しとなる。
サクソバンクの商品戦略責任者オレ・ハンセン氏は「米財政の安定性に対する懸念が引き続き高まる中で、金は現時点で究極の逃避先となっている」と述べた。
金スポット価格はニューヨーク時間午後3時10分現在、前日比105.14ドル上げて1オンス=3088.42ドル。COMEXの金先物6月限は89.20ドル(3%)高い3079.40ドルで引けた。
原題:Best Stock Rally Since 2008 Boosts Wall Street: Markets Wrap(抜粋)
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--取材協力:Tan Hwee Ann、Anand Krishnamoorthy、Jess Menton.
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