(ブルームバーグ):トランプ米大統領が貿易相手国・地域を対象に相互関税の発動を決めたことを受け、ヘッジファンドのサバ・キャピタル・マネジメントの創業者ボアズ・ワインスタイン氏は「雪崩は始まったばかりだ」と指摘し、米銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は「長い目で見れば悲惨な結果になりかねない」と警告した。
ウォール街の大物の多くは、昨年の大統領選を支援したか、そうでなくともトランプ政権に規制緩和と経済成長を期待していたが、グローバル市場を混乱に陥れたトランプ氏の決定に声高に異議を唱え始めた。
ダイモン氏は株主宛ての年次書簡で、貿易政策に起因する不確実性の速やかな解消を求め、米国の長年の経済的同盟関係を分断する悲惨な事態を招きかねないと警鐘を鳴らした。
ダイモン氏は7日の書簡で「この問題は迅速に解決すればするほど望ましい。時間の経過とともに一部の悪影響が累積的に増大し、方向転換が難しくなる」との見解を示した。トランプ氏個人は批判していないが、大統領当選後にウォール街で主流だったトランプ氏支持や用心深い沈黙が変化する様子をうかがわせる。
ワインスタイン氏は4日、貿易戦争は社債の売りを加速させ、企業の経営破綻の波に拍車を掛ける恐れがあると語った。

米投資運用会社オークツリー・キャピタル・マネジメントのハワード・マークス共同会長は4日のブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、トランプ政権が課す新たな関税は、投資先選択の過程で考慮すべき未知の要因を次々に生じさせたと述べた。
アックマン氏も強く批判
ヘッジファンド界の重鎮、ビル・アックマン氏とスタンレー・ドラッケンミラー氏もトランプ氏の相互関税を批判した。
米投資会社パーシング・スクエアの創業者でトランプ氏を積極的に支持してきたアックマン氏は、トランプ氏が打ち出した新たな貿易体制は「間違い」だとXに投稿した。

ドラッケンミラー氏もXに投稿を寄せ、1月のインタビューで言及した政策批判をさらに展開した。同氏はジョージ・ソロス氏の元まな弟子で、財政規律を重視する「財政タカ派」として知られる。
ドラッケンミラー氏は6日の投稿でCNBCとの先のインタビューに言及し、「私は10%を超える関税には賛成しない。そのことは引用されたインタビューでも十分明確にしていた」と説明した。同氏によるソーシャルメディアへの投稿はまれで、ブルームバーグ・ニュースは発言内容を独自には確認できなかった。
トランプ氏は2日、米国への全輸出国に基本税率10%を賦課し、対米貿易黒字の大きい約60カ国・地域には上乗せ税率をそれぞれ適用すると発表。世界一律10%の関税は5日に発動。上乗せ税率は9日に適用される。
親トランプ派のアックマン氏らからも批判が寄せられる中、トランプ氏は関税措置を見直す考えを一切示唆していない。

アックマン氏はXへの投稿で、9日の上乗せ税率導入について、「全世界に対して、われわれが課されている水準を大幅に上回る関税を賦課するのは間違いだと確信している」と表明した。
さらに、トランプ氏が米国にとって不公平だとかねて批判してきた「世界貿易の状況を慎重かつ戦略的に打開する」時間を確保するために、90日間の猶予が必要だとの考えを示した。

また、自身とパーシングについて、市場が暴落した場合に流動性問題を引き起こすような信用取引などのレバレッジを一切行っていないと言明。相場が急落した場合、時価評価による損失が発生する可能性はあるものの、「下落相場での売り手」にはならないとした。
パーシングのポジションで関税の直接的な影響を受けるのは、ナイキのコールオプションのみで、同社ポートフォリオに占める割合は1.5%だという。
アックマン氏は、相場が急落する中でディールをまとめようとするトランプ氏の試みは、交渉における同氏の立場を強めることにならないとも指摘。「大統領にそのような提言をしている人物は、直ちに解任されるべきだ」と付け加えた。
原題:Wall Street Titans Blast Trump’s Tariffs With Markets Roiled、Hedge Fund Billionaires Lash Trump’s Tariffs as Rout Deepens (1)(抜粋)
--取材協力:Natalie Choy、Anshuman Daga.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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