大学への介入姿勢を強めるトランプ政権

トランプ大統領は、まさに疾風怒涛とも言える勢いで様々な政策を繰り出している。そして、その多くは世界経済だけでなく、米国経済にとってもマイナスの影響を与えかねないものである。関税引き上げが特に注目されているが、米国経済の持続的な成長という観点から注意すべきなのは、イノベーションの源泉ともいえる大学へのトランプ政権の介入と補助金カットである。この背景には、トランプ政権が米国の有名大学が実施している多様性推進策が過度にリベラル的であるとして敵視していることがあげられる。また、米国の教育制度は基本的に州の資金が投入されるが、大学は連邦政府に依存する部分が大きいことを考えると、トランプ政権の教育介入は米国が培ってきた世界に冠たる大学・大学院教育に大きな打撃を与え、イノベーション創出力を損なうと考えられる。

米国からの脱出を図る米国人研究者、それを受け入れようとする欧州

こうしたなか、米国の研究者の間では、米国から逃げ出そうとする動きがみられる。例えば、英科学誌ネイチャーは、米国の研究者1600人以上を対象にアンケートを実施したが、そこではトランプ政権によって生じた大学の混乱を理由に「米国を離れることを検討している」と回答した割合が75%に上った。

このような状況下、欧州などでは、米国から流出する優秀な人材を自国の産業力強化に活かそうとする動きが見られる。防衛関係、脱炭素など注力すべき技術分野が多くあるなか、米国を離れる技術者を受け入れ、こうした分野を強化しようとする動きだ。第二次世界大戦時、ナチスドイツの迫害を逃れるために、欧州から多くの研究者が米国に亡命したが、それから約80年後、逆の現象が起きようとしている。これまで優秀な研究者は、英語を活用できる環境を求めて米国に移住してきた。そしてそれは非英語圏の大学や研究機関にとって不利な環境であった。いま米国はオウンゴール的に自国の有意性を失いつつあるところであり、逆に欧州はしたたかにそれを自国の成長機会として活用しようとしている。

日本でも戦略立案を急げ

翻ってわが国では、今のところそうした動きがあまり見られないのは残念である。そもそも、日本の外国人労働者政策は、優秀な研究者を受け入れることが目的の一つであったはずだ。また、明治時代には、優秀な外国人を受け入れて、それを自国の産業発展に活かしてきた歴史がある。

いまこそ、日本は優秀な外国人を受け入れて、その能力を科学技術立国の復活に繋げていくべきであろう。米国から出ていく人材、米国に行くことを諦めた人材は、日本にとって貴重な人的資源になりうる。彼らの知恵を活かし、日本の優秀な研究者たちと連携や切磋琢磨することで、イノベーションを生み出し、わが国経済の成長に繋げることが重要である。

(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 調査部長/チーフエコノミスト/主席研究員 石川智久)