スーザン・アーロンさんは、アルツハイマー病を患う74歳の退職者だった。病気の進行を遅らせるというエーザイの新薬を試せば、極度の疲労とひどい頭痛を経験する可能性があると告げられたが、それでも試すことにした。

3回目の投与から2週間後、アーロンさんは亡くなった。

米食品医薬品局(FDA)への報告によると、アーロンさんはこの薬の副作用として知られている「重度」の脳浮腫と出血を経験した後、昨年7月に亡くなった。

治療前の遺伝子検査では、アーロンさんがこうした副作用のリスクが高いグループに属することが示されていた。長い付き合いの友人で診察に付き添ったバレリー・ポーターさんによると、アーロンさんにはこのようなことが起こり得るという適切な警告はなされなかったという。

「彼女が持つ遺伝子からすれば、処方すべきではないと分かっていたはずだ」とポーターさんはインタビューで語った。

病院側は守秘義務を理由にアーロンさんの件に関するコメントを拒否したが、遺伝的リスク要因を持つ患者にはリスクについて警告していると主張した。

情報公開法に基づき入手した連邦政府の記録をブルームバーグが調査したところによると、過去2年間に米国で「レケンビ(一般名レカネマブ)」という薬に関連した症状により死亡した患者は少なくとも7人に上り、そのうちの1人がアーロンさんだった。

また、FDAの報告書によると、ほかに3人が後遺症に苦しんでいる。ブルームバーグが調査した各症例は、承認時に論争の的となったレケンビの副作用の可能性がある脳の腫れや出血について具体的に言及した詳細な有害事象報告書に基づいている。

米国以外の国・地域の政府は副作用による被害を防止しようとしてきた。レケンビの競合製品であるイーライリリーの「ケサンラ」について、欧州医薬品庁(EMA)医薬品委員会(CHMP)は3月28日、販売を承認しないよう勧告した。致死性の脳内出血のリスクが理由だ。

オーストラリアの薬事規制当局は昨年10月、効果が脳内出血や脳腫脹(しゅちょう)のリスクを上回るものではないとして、レケンビの販売を認めない決定を下した。

欧州当局も同様の理由で7月に承認を拒否していた。再審査後に、アーロンさんと同じ遺伝子構成を持つ患者に使用しないという条件付きで販売を認めた。

3月31日の東京株式市場でエーザイ株は3.8%下落。同日のニューヨーク市場でリリーは0.4%高で終了した。

FDAは異なるアプローチを取り、初期のアルツハイマー病患者に広く使用できるようにし、誰が使用すべきかを決定する権限を医師や医療システムに委ねた。ブルームバーグの調査によると、処方の基準は病院によって大きく異なり、副作用のリスクが高い患者にも処方する病院もあった。

レケンビはエーザイと米バイオジェンとの提携により販売されているが、アルツハイマー病による認知機能低下の進行を遅らせる効果が期待できる初の薬剤として2023年7月にFDAに承認された。

米国では約700万人がアルツハイマー病を患っているが、進行を遅らせる効果のある治療法はこれまで存在しなかった。 レケンビの臨床試験では、患者の症状の改善は見られなかったが、症状の進行を27%抑制した。

アルツハイマー病の進行が少しでも遅くなることは、患者とその家族の悲願だ。医療界は意見が分かれており、この薬を望む患者には試す機会を与えるべきだという医師がいる一方で、副作用のリスクが高過ぎるためより厳重に管理されるべきだという医師もいる。

エーザイは、レケンビを服用中の患者に「まれに致死的な事象や障害が報告されている」ことを認めた。しかし、連邦政府のデータベースには「不完全、不正確、時機を逸した、あるいは未検証の情報」が含まれており、因果関係を証明するものではないとした。

米国ではこれまでに約1万3500人の患者がレケンビを利用しており、年間の費用は約2万6500ドル(約400万円)。

原題:Deaths Linked to Alzheimer’s Drug Spur Concerns Over Who Gets It (2)(抜粋)

--取材協力:Aisha Ziaullah.

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