(ブルームバーグ):パリ9区に1761年から店を構える「ア・ラ・メール・ドゥ・ファミーユ」。時代と共にオーナー家族を変えながらも、パリ市民のあくなき菓子への欲求に支えられ、占領や革命の歴史を乗り越えてきた市内最古のチョコレート店だ。
現在のオーナー、ドルフィ家が2000年に引き継いでからは、ヌガーやプラリネ、マジパンなど150種類余りの商品を、パリ市内の16店舗で販売している。経営する4人兄弟の1人、スティーブ・ドルフィ氏は「販売している商品のすべてを100%自社で生産している」と胸を張る。
だが今、ドルフィ家は多くの同業者が廃業に追い込まれる姿を目にしている。政府の記録によると、欧州全土で少なくとも12の家族経営のチョコレート店が、この1年で閉店している。4年連続でカカオの供給が逼迫(ひっぱく)し、価格が高騰、業界全体の利益が圧迫されたためだ。
ネスレやリンツ&シュプルングリー、ハーシーのような大手企業は、株価こそ打撃を受けているものの、規模のおかげで市場の混乱を乗り切ることができる。だが、小規模な職人工房は、コスト上昇分を顧客にいくら転嫁できるか、難しい計算を迫られている。
スティーブ氏の兄、ジョナサン氏は「値上げしなければ会社は赤字となり、人員整理をしなければならず、大変なことになる。でも、過剰に値上げすれば、それもまたリスクになる。我々は綱渡りをしているようなものだ」とぼやいた。
一大市場
欧州は世界のカカオ豆輸入量の約半分を占め、500億ドル(約7兆5200億円)規模のチョコレート市場を支えている。スイスやドイツでは、1人当たり年間約9.1キログラム余りのチョコレートを消費している。カカオ豆の大半は西アフリカから輸入されているが、厳しい気象条件や作物の深刻な病気により、同地域の収穫量は激減している。
カカオ業界関連機関の推計によると、2023-24年シーズン、市場は少なくとも1980年代以降では最大となる47万8000トンの供給不足に陥った。その結果、カカオ豆価格は昨年ほぼ3倍の1トン当たり1万3000ドル近くまで上昇し、大手チョコレートメーカーや食品メーカーの経営を圧迫した。スイスの大手企業ネスレは、一部のコスト上昇分を消費者に転嫁したうえ、ビスケットやウエハースの比率を高めてカカオの量を減らすという対応に追い込まれた。
事業をたたむ企業もある。ドイツの製菓会社レイシェッファーは、1世紀以上にわたりドイツで最も人気の高いチョコレートプラリネを製造してきたが、原材料費とエネルギー費の高騰を理由に2022年に破産申請し、昨年11月に清算された。その数週間前には、19世紀後半から操業を続けるオーストリアのザルツブルグ・ショコラデが、目玉商品を製造していた工場を閉鎖した。
8%の値上げに踏み切ったドルフィ家同様、小規模な菓子メーカーも苦渋の決断を迫られている。
オーストリアのチョコレート店フランツ・ハウスバートは、価格高騰により人気商品であるイースターバニーの値上げを余儀なくされた。経営責任者で、3代目職人だったローマン・ハウスバート氏は、これが「需要の破壊」につながったと振り返る。同社は昨年11月、破産を申請した。

代替
チョコレート大手のハーシーとモンデリーズ・インターナショナルは、先週ニューヨークで開催された消費者アナリストグループの会議で、チョコレートの価格が以前より40~50%上昇するという「ニューノーマル」に、消費者は適応する必要があるとの見方を示した。
市場分析会社トロピカル・リサーチ・サービスのリサーチ部門責任者スティーブ・ウォーターリッジ氏は「消費者は、より安価なチョコレートへとシフトするだろう」と述べた。
大手企業は、ココアバターをシアバターベースの同等品に置き換えたり、ヒマワリ油やパーム油で代用したりするなど、代替原料を使ってコスト削減を試みている。しかし、職人生産者はレシピの変更には消極的だ。
一部の生産者は、カカオの供給源を、生産不足が最も深刻なコートジボワールやガーナから、生産量シェアを着実に増やしている中南米地域へと多様化している。
ベルギー・ブルージュのチョコレート店「デュモン」のオーナー、ジェレ・デスキャンプ氏はここ数年メキシコやコロンビアなど南米の生産者により重点を置くようになったと明かす。
JPモルガン・チェースのアナリストは、今シーズンの供給不足が予想を下回るとし、10万8000トンから4万トンに修正した。価格の高騰により需要も落ち込んでいるためだ。
ただ、ウォーターリッジ氏は、長期的に価格が落ち着く可能性は、需要の減少の度合いと西アフリカの収穫状況の改善にかかっていると述べた。「2025-26年シーズンは、コートジボワールとガーナの生産量の減少を過小評価していなければ、需要がさらに落ち込んだ場合、かなりの量の余剰が生じるだろう」と指摘する。
長期的に供給が緩和されたとしても、小規模なチョコレート生産者にとっては厳しい年が待ち受けている。ドルフィ兄弟は電子メールで「このようなケースで悲しいのは、レシピや技術が失われてしまうことだ。口頭で受け継がれてきた伝統も数多くある」と述べ、家族経営のチョコレート店消滅により失われるものに懸念を示した。
価格の高止まりが続く中、次のクリスマスも悩みの種だ。兄弟は、多くの同業者同様、「ただ待って、祈るだけだ」と述べた。
原題:High Cocoa Prices Push Historic Chocolatiers to Bankruptcy(抜粋)
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