中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)が3月5日に開幕する。共産党の習近平総書記(国家主席)が率いる指導部が経済の方向性を定め、向こう1年間の歳出計画を策定する機会となる。

トランプ米大統領が追加関税をちらつかせる中、中国経済はデフレと長引く不動産不況に見舞われており、個人消費の喚起策はこれまで以上に重要性を増している。

中国の人工知能(AI)スタートアップ、DeepSeek(ディープシーク)への期待感を追い風に中国ハイテク株が急伸していることから、株高が続くか見極めるため投資家は新たな景気刺激策の強度とより広範な政策シグナルを注視する見込み。

全人代の議題は

毎年春に開催される全人代は約1週間続く。中国全土から約3000人の代表が北京の人民大会堂に集まる中、李強首相が初日に政府活動報告を読み上げる。

財政省から別に提出される財政報告と共にこの報告の目玉となるのは2025年の経済成長率目標(3年連続で5%前後を維持する公算)や財政赤字見通しといった重要な数値だ。目標達成のため政府がどれだけの財政出動を準備しているかが明らかになる。

政府はまた、約20年ぶりにインフレ率目標を3%を下回る水準に引き下げる可能性もある。2%に設定される場合は、政策当局がデフレ長期化リスクを意識し始めたことを示すシグナルとなる。この目標は通常、拘束力のある目標というよりも上限として扱われる。

今年の主な焦点は個人消費の喚起だろう。政策当局は消費財の下取りプログラムを拡大し、家計の信頼回復と長期的支出を引き出す措置を導入する可能性がある。年金支給額の引き上げや基本的な社会保険への補助金増額、子育て世帯への支援などの措置が想定され得る。

これらの計画は、閉幕までに全人代で承認される見通し。

トランプ米大統領への言及は

全人代の公式文書がトランプ米大統領に言及することはないだろうが、中国を標的としたトランプ政権の政策は全人代に大きな影を落としそうだ。

トランプ大統領は就任以来、中国製品に10%の追加関税を課したほか、テクノロジーやエネルギーなどの戦略的分野への中国からの投資を制限をしようとしており、中国からの輸入品に独自の関税を課すようメキシコに求めている。

李首相

貿易環境の悪化は、中国の経済成長を主に推進してきた輸出に課題を突き付ける。内需は依然として弱く、これまでの債務頼みの成長モデルへの回帰に消極的な政府は、個人消費の拡大に一段と重点を置いている。

李首相は最近、成長の主要な推進力として消費を強化する必要性を強調し、内部の循環という言葉を用い、内需が中心的な役割を果たすと示唆した。

中国が国内での自足を優先した新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)期に初めて登場したこうした表現が再び使われたことは、米国とのより深刻な経済的対立に備えていることをうかがわせる。

他の会期中イベントは

党代表と芸術、ビジネス、法律の各分野の代表者で構成される諮問機関、人民政治協商会議(政協)も開催される。政協は全人代とあわせて「両会」と呼ばれ、李首相や財政省などからの報告を検討する。

王毅外相の年次記者会見は重要なイベントだ。トランプ政権2期目の政策に対処する中国政府の戦略やウクライナでの戦争終結における中国の役割に関するヒントに注目が集まりそうだ。

また、トランプ政権がロシアと和平協議を開始し、米国の長年の対ロ政策を覆したことを受け、習総書記とプーチン大統領の協力関係の行方についての手がかりも注視される。

サプライズはあるか

恐らくないだろう。何十年もの間、毎年恒例の全人代は、世界2位の経済大国を導く政府高官の人柄や考え方を垣間見る貴重な機会を投資家に提供してきた。しかしここ数年、次第に台本通りに進行するようになり、即興のコメントや型破りな提案の余地はほとんどなくなった。

代わりに代表らは「無難な話題」に焦点を絞るかもしれない。ディープシークの台頭を受けてAIが主要テーマの一つとなる公算が大きい。政策当局は中国の将来的な発展におけるAIの役割をアピールしようとしていることから、AIのメリットと課題の両方が議論の中心となることが予想される。

原題:How China Aims to Trump-Proof Economy as Top Lawmakers Meet(抜粋)

--取材協力:Kevin Dharmawan、Soo Jin Kim、Tom Pfeiffer.

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