(ブルームバーグ):23日投開票されたドイツの総選挙で、首相候補として保守系野党のキリスト教民主・社会同盟 (CDU・CSU)を勝利に導いたメルツ氏(69)は、自国の経済を復活させるために数々の難題に直面することになる。だが、欧州の他の国々は、次期ドイツ首相のリーダーシップに期待もしている。
トランプ米大統領はロシアのプーチン大統領と欧州の頭越しに欧州大陸の安全保障を協議するなど、米国が提供する安全保障の枠組みは北大西洋条約機構(NATO)設立以来、最も揺らいでいる。こうした中で、メルツ氏は欧州最大の経済大国ドイツを率いる。
欧州連合(EU)首脳は3月6日、対米関係について話し合う。ウクライナを支援し、ロシアの侵略を抑止するには何兆ユーロもの資金が必要で、ドイツの財政力はあらゆる計画にとって不可欠だ。だが、メルツ氏はCDU党首として、これから数週間にわたり続くとみられる連立協議にも縛られる。事情に詳しい人物によると、メルツ氏の周辺は、ショルツ首相に同行してEU首脳会合に出席する案を提起した。
シンクタンク、ドイツ外交問題評議会のレイチェル・タウゼントフロイント上級研究員は「課題は非常に大きいが、選挙結果はさほど強力ではない」と指摘した。
極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が過去最高の選挙結果を残し、連立の選択肢が狭まる中、メルツ氏には空洞化した軍備の再強化、経済成長の回復、極右勢力の伸長を抑えるための移民抑制策といった課題が待ち受ける。保守派のメルツ氏は、敗北したショルツ氏の社会民主党(SPD)に接触し手を組むことで、いわゆる大連立を組む構えだ。実現すれば、与党勢力は新連邦議会630議席のうち、328議席を占める。
ベルギーのシンクタンク、ブリューゲルのグントラム・ウォルフ上級研究員は、ブルームバーグテレビジョンに対し「ドイツは欧州全体をリードするには小さ過ぎるが、その他大勢の欧州の一国となるには大き過ぎる。まさにこれがメルツ氏が直面する問題だ。メルツ氏は適切な連合を見つけ、欧州の主要な同盟国や機関と協力しなければならない」と語った。
対トランプ
米国のトランプ氏との関係は、首相就任後のメルツ氏にとって試金石となりそうだ。23日の選挙後、メルツ氏は「米国からの自立」を達成するべく、欧州の強化を目指すと発言した。
フランスのマクロン大統領、英国のスターマー首相は今週ワシントンを訪問し、ウクライナと欧州への支援を維持するよう、トランプ氏を説得しようとしている。メルツ氏も、就任後すぐにこの流れに続く可能性が高い。
米国のバンス副大統領、トランプ氏に近いイーロン・マスク氏は選挙期間中、AfDを支持していたため、訪米は難しい旅になる可能性がある。しかし、米大統領選中に公然とトランプ氏に異議を唱えたショルツ氏よりは、メルツ氏はトランプ氏との関係構築に適しているかもしれない。
中国に対して、メルツ氏はショルツ氏以上に冷ややかだ。ドイツの企業首脳らに対し、中国への投資を控えるよう警告している。さらに、メルツ氏はトランプ氏と対立したCDUの同僚であるアンゲラ・メルケル元首相と険悪な関係にあった。
23日夜、トランプ氏はソーシャルメディアに「ドイツ国民は、特にエネルギーや移民問題に関する非常識な政策にうんざりしていた。これはドイツにとって、そしてドナルド・トランプという紳士のリーダーシップの下にある米国にとって、素晴らしい日だ」と投稿し、メルツ氏を祝福した。
とはいえ、ホワイトハウスがロシアに歩み寄り、欧州からの軍撤退を検討しているこの時期に、防衛や関税についてトランプ氏が姿勢を軟化させる兆しはない。そのうえドイツは昨年、対米貿易黒字が過去最高を記録し、トランプ氏に目を付けられている。
防衛強化
こうした背景を踏まえると、次期首相としてメルツ氏が最も緊急に対応を迫られているのは、ドイツの防衛強化だ。メルツ氏は選挙戦終盤、ロシアによる攻撃があった場合に、トランプ氏がNATOの義務として欧州同盟国を守ることに完全にコミットしているわけではないことを、欧州は受け入れる必要があると述べた。
欧州は軍事力が著しく低下し、資金難にも直面する。メルツ氏には、欧州全体の再軍備を後押しするためドイツの低い借り入れコストの活用を認めるよう極めて大きな圧力がかかっている。
より迅速に資金を確保するため、メルツ氏は緊急事態を宣言して政府の借り入れ限度額、いわゆる「債務ブレーキ」を停止し、ウクライナと欧州の武器と弾薬を緊急に調達することもあり得る。
安全保障上の状況を背景に、ドイツでは通常数カ月を要する連立協議が、今回は極めて速く進む可能性がある。メルツ氏は23日、4月20日のイースター(復活祭)までに連立合意に達したいと述べた。また、新政権発足までのつなぎ役でしかなくなったショルツ首相も、その間にメルツ氏の支持を得て緊急措置を導入する可能性がある。
メルツ氏は23日夜、他党とのテレビ討論で、「欧州はドイツが再びより強いリーダーシップを発揮することを待っている。私たちは行動できることを示さなければならない」と語った。
原題:Merz Wins Chance to Fix Germany and Steer EU Through Trump Era (1)(抜粋)
--取材協力:Lizzy Burden、Anna Edwards、Tom Mackenzie、Francine Lacqua、Zoe Schneeweiss.
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