米国主導の貿易戦争リスクに過去数週間にわたって身構えてきた金融市場は3日、新たな現実に対処する必要に迫られている。

カナダとメキシコからの輸入品に25%、中国からの輸入品に10%の追加関税を課すというトランプ大統領の決定を受け、アジア時間3日午前に投資家はまずはドル買いで反応。株式相場と株価指数先物は下落している。各国はすでに報復措置を講ずる方針を打ち出している。

米ドルは主要通貨の大半に対して上昇し、ブルームバーグ・ドル・スポット指数は1.1%上昇。米国株を欧州株の先物は売られ、S&P500種株価指数先物は一時2%近く下落した。カナダ・ドルは2003年以来の安値を付けた。メキシコ・ペソは3%近く下落。リスクに敏感な豪ドルも、米国の対中関税の影響を受けやすいとの見方から1%余り値下がりした。

円相場は0.2%下落し1ドル=155円56銭。東京株式相場は大幅安となり、日経平均株価は午前の取引で一時2.8%安となり、下げ幅が1100円を超えた。売り先行で始まった日本国債は日本株の大幅下落を受けて、リスク回避の動きから上昇に転じている。

トランプ米大統領が欧州連合(EU)に対し新たな関税を「間違いなく」課すことになるだろうと述べたことから、ユーロは下げ幅を拡大し1.1%安。

オフショア人民元は0.4%下落。台湾ドルは一時1.1%安と、15年以来最大の下げ。韓国ウォンは1.2%安。南アフリカ共和国の通貨ランドは一時1.9%下落した。

原油価格は急騰。指標のウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油は一時3.7%上昇し、1バレル=75.18ドルを付けた。

昨年の米大統領選でトランプ氏が勝利して以来、関税を巡る観測はドルの押し上げ要因となってきた。ブルームバーグ・ドル・スポット指数は先週に約1%上昇し、週間ベースでは昨年11月中旬以来の大幅高となった。半面、1月31日の米国株式市場は反落。自動車メーカーや中国関連企業を中心に売りが優勢となった。

債券トレーダーは、市場で高まるリスクに焦点を当てるか、インフレ懸念に焦点を当てるかの選択を迫られる。アジア時間3日午前に米国債のイールドカーブ(利回り曲線)はベアフラット化。2年債利回りは一時7ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し、4.27%。10年債利回りは2bp上昇して4.56%を付けた。

ユーリゾンSLJキャピタルのスティーブン・ジェン最高経営責任者(CEO)は「他の国々が米国の政策に報復したり追随したりするのを政治的に余儀なくされるため、短期的に貿易摩擦がエスカレートする可能性がある」と指摘。「これは短期的には、ドル高と米国債利回りの上昇を支えるはずだ」と語った。

ドルの強気ポジションの背景には、関税がインフレ圧力を強めて米国の金利を高止まりさせる一方、世界経済には打撃となることで安全資産としてのドルの妙味は高まるとの見方がある。

 

コーペイのチーフ市場ストラテジスト、カール・シャモッタ氏は「3日のアジア市場再開時にはペソとカナダ・ドルに売り圧力がかかると予想されるが、それがどれほど深刻なものになるか評価するのは難しい」とし、「市場参加者がトランプ氏の言動を真剣かつ文字通り受け止め始めるのに伴い、金融市場は今後数週間、痛みを伴う調整プロセスを経験する可能性がある」と語った。

 

株式市場では、貿易戦争の最前線に位置するとみられるセクターへの警戒感が強まっている。

大手自動車メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーター、ステランティスなどは世界的なサプライチェーンを持ち、メキシコとカナダへのエクスポージャーも大きいことから、株価が大きく反応すると予想される。電気自動車(EV)メーカーのテスラやリビアンも打撃を受ける可能性がある。最近の企業の決算説明会ではすでに「関税」という言葉が頻繁に登場している。

米国上場の中国株指標であるナスダック・ゴールデン・ドラゴン指数は先週末に3.5%下げ、約7週間ぶりの大幅安で引けた。

TDセキュリティーズのシニア金利ストラテジスト、プラシャント・ニューナハ氏(シンガポール在勤)は「交渉がどういった結果になろうとも、高関税と報復措置は現実に迫っている」と指摘。「頭の痛いサプライチェーンの問題が再燃しており、コストと価格の上昇も待ち構えている」と語った。

トランプ氏は先週、自らの通商政策に対する市場の反応には動じていないと語っていた。

ただ、コロンビア・スレッドニードル・インベストメントのエド・アルフセイニ氏は、トランプ氏が今や「報復の可能性が高い、最も危険な関税戦略に乗り出した」と指摘。「金融情勢の引き締まりが見込まれ、株価の下落や信用スプレッドの拡大があるだろう」と述べた。

ソシエテ・ジェネラルの米金利戦略責任者、スバドラ・ラジャッパ氏は「株式市場で売りが強まれば、投資家は安全な債券に群がることになろう。関税引き上げによるインフレの影響は、インフレ期待の高まりとイールドカーブのフラット化につながる可能性がある」と語った。

原題:Investors Buy Dollars, Send Stocks Sliding as Trade War Begins、Dollar Advances, Stocks Tumble on Trump Tariffs: Markets Wrap、Taiwan Dollar Posts Biggest Drop Since 2015 as Trading Resumes、Won Drops on Trade Tensions Sparked by Trump: Inside Korea、South African Rand Slides 1.9% as Trump to Cut Off Funding (抜粋)

(米ドル指数やユーロなどの相場を更新します)

--取材協力:Maria Elena Vizcaino、Michael O'Boyle、Esha Dey.

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