日本銀行の氷見野副総裁は1 月14 日に神奈川県金融経済懇談会において挨拶を行った。氷見野副総裁の発言は1 月会合において金融政策運営の判断が可能とする内容であり、どちらかと言えば判断の難しさを強調していた植田総裁に比べて、中立的と言える。植田総裁のハト派的なトーンとの間でバランスを確保し、2025 年1 月の金融政策決定会合が“ライブ”であることを強調するニュアンスだったと言える。敢えてだろうが、ビハインド・ザ・カーブのリスクが乏しい観点に関する言及も行わなかった。但し、1月会合における政策決定の方向性も提示していない。
強い結果を「願っております」
賃金動向に関して、氷見野副総裁は、内田副総裁の新陳代謝に倣う格好で、「生産性を高めて賃金を引き上げ続けられる企業へと労働力が移動する傾向は強まっています」と論じた上で、「強い業況判断、高い水準が続いている企業収益、歴史的には低い水準にある労働分配率、人手不足、転職の活発化、最低賃金の引き上げなどからすれば、2024 年度に続いて強い結果を期待できるのでは、と願っております」と比較的強めのトーンで述べた。但し、「願っております」との締め括りが示すように、見通しにとどまらず、不透明感を踏まえた「期待」を含めた論じ方だった。
米国の政策運営に関して大きな方向は示されうる
海外の注目点である、米国のトランプ次期大統領による政策運営に関して、氷見野副総裁は1 月20 日に予定される「来週の就任演説で政策の大きな方向は示されるのではないか」と1 月会合において材料が出揃う可能性を提示した。しかし、就任演説の内容で全てが論じられる訳では当然に無く、具体化を巡って更に不透明感は強まるとも言えるだろう。
氷見野副総裁は、金融政策運営に関して「来週の金融政策決定会合では、「展望レポート」にまとめる経済・物価の見通しを基礎に、利上げを行うかどうか政策委員の間で議論し、判断」と述べ、2025 年1 月の金融政策決定会合が“ライブ”であることを強調した。但し、政策判断の具体的な方向性に関しては当然だが言及を避けている。
追加利上げのゴール
政策金利のゴールに関して、氷見野副総裁は、結論を避けつつも、「ショックやデフレ的な諸要因が解消された状態であれば、実質金利がはっきりとマイナスの状態がずっと続く、というのは、普通の姿とはいえないのではないか」と述べた。少なくとも政策金利が実質ベースで「はっきりとマイナス」つまり大幅なマイナスになることを否定する見解と言えるだろう。もちろん大幅なマイナスの定義は定かではないが、2%インフレを前提とすれば、少なくとも政策金利が1%を下回り、マイナス幅が1%を超えるような事態を避けるとも言える。
コミュニケーションのタイミングの平準化
コミュニケーションに関して、氷見野副総裁は情報提供のタイミングの平準化と情報提供のスケジュールの早期公表を図る方針を示した。但し、「毎回の金融政策決定会合の結論について、事前に市場に完全に織り込んでもらえるようにコミュニケーションをとるべきだ、ということにはなりません」と述べ、事前の金融市場への織り込みを企図したコミュニケーションを否定している。
情報提供、記事執筆:SMBC日興証券 チーフマーケットエコノミスト 丸山義正
2025年1月15日発行レポートより転載