主要新興国で構成されるBRICSを巡っては、昨年10月にロシアで開催された首脳会議に際して、すでに加盟している10か国のほかに、将来的な加盟に向けた「パートナー国」の資格を新設するとともに、パートナー国として13か国を認定することを明らかにした。

この背景には、ここ数年の世界経済が欧米などと中ロとの間で分断の動きを強めており、中ロ両国がともに加盟するBRICSを舞台に、いわゆる「グローバルサウス」と称される新興国への影響力拡大を目指す動きを隠さないことがある。新興国のなかには政治体制面で欧米などの干渉を嫌う国が少なくないなか、BRICSが「内政不干渉」を前提とした枠組であることも加盟への誘因を強める一因になっているとみられる。

さらに、このところの国際金融市場においては米ドル高圧力が強まる動きがみられる一方、近年は米ドルをはじめとするハードカレンシーでの資金調達を活発化させてきた新興国においては、米ドル高に伴う自国通貨安の動きが債務負担を増大させるとともに、外貨不足を招くといった問題に直面している。

こうしたなか、BRICSの開発金融機関である新開発銀行(BRICS銀行)は被支援国通貨建での融資実施に動くとともに、BRICSとしての共通通貨構想を打ち上げる動きをみせており、米ドル高に苦しむ新興国にとってはBRICS加盟の誘因が強まっている。

他方、米国のトランプ次期大統領はこうしたBRICSの動きを念頭に、米ドルに代わる通貨や決済制度の創設に対して仮にそうした動きに出た場合には100%の関税を課す方針を示すなど警告する姿勢をみせている。

ただし、こうしたトランプ氏の姿勢に対して中国やロシアは反発を強めるとともに、BRICSの結束強化により事態打開を図るとの意思を隠さず、加盟意欲を示す国々がどのような動きをみせるかが注目されてきた。

こうしたなか、6日に今年の議長国であるブラジル政府は、昨年の首脳会議においてパートナー国となったことが指摘されてきたインドネシアがBRICSに正式加盟したことを明らかにしている。インドネシアを巡っては、昨年10月に大統領に就任したプラボウォ氏が加盟意欲を示すとともに、首脳会議にスギオノ外相が出席するなど、加盟に向けて『前のめり』の姿勢をみせてきた。

ブラジル政府は、今回の決定について「東南アジア最大の人口と経済規模を誇るインドネシアは、他の加盟国とグローバル・ガバナンス制度の改革へのコミットメントを共有しており、BRICSが掲げる主要テーマであるグローバルサウスとの協力強化に積極的に貢献している」との考えを示している。BRICS加盟に際しては、すでに加盟している国の全会一致での承認が必要であり、すでに加盟している9か国(サウジアラビアは一昨年の首脳会議において加盟合意に至るも、国内における批准手続きなどが進んでいないとされる)が全会一致で加盟に賛成した模様である。なお、インドネシアはASEAN(東南アジア諸国連合)地域でBRICSに初めて加盟する国となるほか、同国のほかにもASEAN諸国のなかではタイとマレーシア、ベトナムもパートナー国となっているとされ、今後は加盟の動きが一段と広がることが予想される。

なお、上述したように米トランプ次期大統領はすでにBRICSに対してけん制の動きをみせるなか、BRICSが中ロを軸に米国への対抗姿勢を一段と強める動きをみせれば、両者の間の軋轢が生じることが懸念される。他方、インドネシアをはじめとするASEAN諸国は『実利重視』によるバランス外交を模索しているほか、その他のパートナー国を巡ってもNATO(北大西洋条約機構)加盟国であるトルコは中ロの『暴走』に対する歯止め役となる可能性は考えられる。

とはいえ、経済規模の面では枠内において中国の存在感が圧倒的であるなど中国の動向に左右される枠組となることは避けられず、結果的に中ロの意向を無視した方向に動く可能性は低いのが実情であろう。その意味では、先行きのBRICSは加盟国が増加するなかで『求心力』と『遠心力』のバランスにこれまで以上に注意を払う必要性が高まることが予想される。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 西濵徹)