旅行ライターは認めたがらないが、もはや地球上のどこにも「新しい」場所などない。

では、いろんな場所を野心的に訪れたい者たちに新鮮な魅力を提示するリストをどう作成すればよいのだろうか。人は通常、魅力的な場所として長く知られてきたが、新鮮なアップグレードが満載だと感じられる世界の片隅や、多くの人々にとって隠れた名所となっている静かな場所からインスピレーションを得る。また今年は、数十年間にわたって完全には開放されていなかった地域も、徐々に経済的・文化的な機会として観光を受け入れ始めている。

以下は2025年に訪問すべき世界25カ所だ。

アルジェリア

グランデルグオクシデンタル砂漠

1962年まで8年に及ぶフランスからの武装独立闘争と、1990年代の内戦という歴史上の2つの厳しい時期を経てアルジェリアは、自国の文化を保護するため内向き志向となった。だが現在は政情が安定し、2023年には観光立国に向けた第1弾として到着ビザ制度を導入した。

まださほど注目されていない今のうちにアルジェリアを訪れれば、かなり貴重な体験が得られるだろう。ティミムン近郊ではヤシの木が点在し観光バスが全くいないサハラ砂漠のオアシスを眺め、西洋の視点をほとんど意識しない活力あふれる文化を目にすることができる。

まずエレガントな首都アルジェから出発しよう。フランスが建てた荘厳な国立美術館と、独立闘争で命を落としたアルジェリア人をたたえる記念塔がある。次に人口50万人の都市コンスタンティーヌに向かおう。7つの橋が、まるで精巧な空中の綱渡りのように、リュメル川の広い渓谷にかかっている。最後に訪れるのは、かつて栄えたローマの植民市クイクル。驚くほど保存状態の良い遺跡が目もくらむほど詰め込まれている。

ベストシーズン

9月と10月は夏の砂漠の暑さもなく、あらゆる体験を楽しめる。春のピークである4月と5月も同様の利点がある。

避けた方が良い時期

ラマダンで現地の生活が静止状態になる3月、サハラ砂漠の気温がカ氏100度(セ氏38度)を大きく超えることがあり得る7月と8月は避けるべきだろう。

セーシェル

セーシェル・プラット島のウォルドーフ・アストリア

ケニアの東海岸から1000マイル(約1600キロメートル)離れたセーシェルの115から成る島々は、引き続き富裕層向けの特別な逃避行先となっており、贅(ぜい)を尽くした高級ホテルはそれにふさわしい価格設定だ。単に人里に離れた場所にあるからだけではなく、長年にわたり、法律によってホテル開発が低密度プロジェクトに限定されてきた。フランスの高級ブランド、LVMHのシュヴァル・ブラン・セーシェルや、ウォルドーフ・アストリアのホテルがオープンしたことは、同国を訪れる新たな理由となっている。

LVMHはセーシェル最大の島であるマヘ島にシュヴァル・ブランのヴィラ52棟を建設するに当たり、建築家ジャン・ミシェル・ガシー氏を起用してセーシェルのクレオールデザインに共通する高い屋根のラインを持つ建物を建築した。内部には、隣国マダガスカル出身のアーティスト、ジョエル・アンドリアノメアリソア氏による複雑に織り込まれた壁掛けが飾られている。宿泊客はゲランのスパや5カ所のレストランを利用できる。

ウォルドーフ・アストリアの50棟のヴィラが建つプラット島は、クチナシの花が咲き乱れる小さなプライベートアイランドで、セーシェル国際空港からチャーター機で25分ほどの距離にある。ウミガメの保護区で、 カイトサーフィンやフライフィッシング、スキューバダイビング、ガイド付きのサンゴ礁ウォークなどが楽しめる。

ベストシーズン

セーシェルは年間を通じて温暖だが、湿度が低く風も穏やかな4月と5月、10月、11月が最適。夏の観光客の殺到を避けられるこの時期は、比較的混雑しない。

避けた方が良い時期

貿易風が強く吹くのは12月から3月と、6月から9月にかけてで、この時期には島々の真っ白な砂浜が海藻で覆われてしまうこともよくある。

ロサンゼルス

料理する「Somni」のシェフ

ファインダイニングが再び盛り上がりを見せている。シェフのアイトール・ザバラ氏が腕を振るう「Somni」で味わえるのは、495ドルの超モダンなスペイン料理20品のフルコースだ。有名レストラン「Alinea」で経験を積んだシェフ、デーブ・ベラン氏がサンタモニカでオープンする「Seline」では、295ドルのコース料理(15-18品)がオープンキッチンから提供される。

サンセット大通りには、東京の有名なすし店「宇田津」の米国1号店がある。店はかつてレコーディングスタジオだった場所にあり、225ドルのモダンなお任せコースを味わえるのは一度に8組だけとなっている。

もちろん、食事だけでなく睡眠も大切だ。ヨットを思わせる心地よい客室とスイートがあるリージェント・サンタモニカ・ビーチでゆっくり眠ろう。ただ同ホテルは朝食も目玉の一つ。これから始まるおいしい一日のためのウオーミングアップだと考えてほしい。

ベストシーズン

温暖な気候で混雑が少ない時期を選ぶなら、3月から5月がおすすめ。秋も過ごしやすい気候で、主要アトラクションの長蛇の列を避けることができる。

避けた方が良い時期

特にディズニーランドが目的なら、6月から8月は避けた方が無難だ。この時期は猛暑と極端な物価高が重なる。

チリ・ポルティージョ

ポルティージョのスキー場

南米チリのスキーリゾート、ポルティージョは、事情に詳しいパウダースノーを求めるスキーヤーにとって、日本のニセコのゲレンデと並ぶ伝説的な場所だ。

グローバルな巨大リゾート企業が業界で支配的な地位にある中、ポルティージョは独立を貫いている。リゾート内にホテルは1軒しかなく、映画館やディスコ、ピアノバーなど、必要な施設は全てこの6階建ての黄色い外壁のホテルに備わっている。

宿泊客は1週間もしくは3-4日の滞在を予約する。ホテルではチリ式のティータイムを含む1日4回の食事が用意され、まるでクルーズ船にいるかのように、ダイニングルームで他の宿泊客と話しながら食べることができる。

なぜ今行くのがおすすめなのか。それはオーナーのパーセル一族が創業75周年を記念して、幾つかの催しを用意しているためだ。チリのワインメーカーが主催する山頂でのディナーや、星空散策などが楽しめる。

また、車で約2時間の場所にあるサンティアゴの空港で新たな国際線ターミナルが開業したため、アクセスがより容易になった。

ベストシーズン

ここではスキーをするのが目的のため、真冬に来れば間違いない。しかし天候が落ち着いて確実に雪が積もった時期に来たいなら、8月から9月上旬にすべきだ。

避けた方が良い時期

1月に開催される人気の音楽フェスティバルを除き、11月から6月にかけては、この周辺ではあまりイベントは開催されない。ハイキングやカヤックを楽しむ人はいるだろうが、メインのホテルは閉まっているだろう。雪が降り始めるまで旅行を延期するのがおすすめだ。

スコーネ(スウェーデン)

メアリーヒル・エステート

隣国デンマークの首都コペンハーゲンから車でわずか30分。スウェーデン最南部に位置するスコーネ地方には古い灯台や趣のある漁村が点在する。カラフルな小屋が立ち並ぶ長いビーチで散歩したり、カルダモンロールと共にコーヒーブレーク「fika(フィーカ)」をゆっくり楽しめる場所だ。

そんなのんびりとしたスコーネだが、コスモポリタンな雰囲気も漂っている。エーレスンド海峡近くに新しくオープンした「メアリーヒル・エステート」はバロック様式の城を改装したリゾートで、ホテルは163の客室を備える。フランス・ロワール地方の古城ホテルに匹敵するほど壮大だ。このホテルを拠点にスコーネの最大都市マルメなどさまざまな観光地を訪れてみてはいかがだろうか。

またスコーネはグルメでも注目だ。著名シェフのマグヌス・ニルソン氏は2025年春、リゾート地として人気のボースタードに「ペンショナート・フルヘム」をオープンする。かつて女子寄宿学校だった建物を改装したペンションで、レストランでは地元の伝統料理などが楽しめる。

ベストシーズン

6月から9月がお勧め。気温は夏のピークでも最高でカ氏70度台半ば(セ氏20度台半ば)だ。

避けた方が良い時期

11月から1月は避けた方が良い。冬のスウェーデンは日照時間が短く、旅行はお勧めしない。

メキシコ・コスタパルマス

フォーシーズンズ・ロスカボス・アット・コスタパルマス

バハカリフォルニア半島の南端に近いサンホセ・デル・カボ空港を経由して訪れる観光客は増加の一途をたどっている。2023年には386万人が訪れ、そのほとんどが必然的にロス・カボス回廊にたどり着く。しかし、約60マイル(約97キロメートル)離れた同半島の東の岬にあるコスタパルマスでは、より高級な代替案が生まれつつある。

この1500エーカーに及ぶプライベートビーチフロントコミュニティーは、フォーシーズンズが19年に白を基調とした部屋やロバート・トレント・ジョーンズ2世が設計した評価の高いゴルフコースを設けて有名になった。25年には、コスタパルマスのゲート内に幾つかのリゾートとレストランがさらにオープンし、一段と盛り上がりを見せるだろう。

リゾートから資金支援を受けるコスタパルマス基金は、訪問先に良い影響を与えたいという旅行者の要望に応えることを目指している。ビーチの清掃やウミガメの放流会、玩具の寄贈、ゲストや近隣住民をつなぐボランティアの機会を企画しているほか、地元の人々と協力して公園を整備したり、学校や医療施設を設けたりしている。メキシコ観光の新たなモデルとして、より希少性を高めると同時に、地域社会との結び付きを強めている。

ベストシーズン

11月と4月が最適で、大混雑や荒天を避けられる。

避けた方が良い時期

9月と10月はサーファーにとっては良いが、ハリケーンやトロピカルストームの発生確率が比較的高いため、その他の人々にとって最適な時期とは言えない。

日本

フォーシーズンズホテル大阪のプール

草間彌生氏の作品「南瓜(かぼちゃ)」で知られるアートの島、直島で建築家の安藤忠雄氏が手がけた最新プロジェクトは、日本で優先的に訪れる価値のある場所の1つだ。瀬戸内海に浮かぶこの島を舞台に展開されるアート活動「ベネッセアートサイト」の10番目の文化施設として、直島新美術館が2025年春にオープンする。地下2階、地上1階の3層から成る同美術館では、村上隆氏や蔡國強氏らアジアの著名な現代美術家の作品が展示される。

今年の「世界のベストホテル」でバンコクの施設が首位に輝いた高級ホテルチェーンのカペラが、古都・京都に進出する。カペラ京都は92の客室と温泉をイメージしたスパを備え、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されている清水寺までは徒歩圏内だ。また、建築家・隈研吾氏が設計したシャングリ・ラのホテルも京都にオープンする。

一方、大阪では、畳や障子といった伝統的な旅館の要素をガラス張りの高層タワーに取り入れたフォーシーズンズのホテルが開業したばかり。25年大阪・関西万博の開幕までに、ウォルドーフ・アストリアやカペラの姉妹ブランド、パティーナなどの5つ星ホテルが次々とオープンする予定。

ベストシーズン

事情通の人々が訪れるのは2月だ。3月と4月には桜が、10月と11月には紅葉が楽しめる。しかし、真冬の時期は混雑が少なく、料金も割引になるチャンスだ。

避けた方が良い時期

8月だ。あまりの蒸し暑さに、たとえタクシーを使ったとしてもレストランに入るまでに汗だくになるのは必至だと、この時期に訪れたことのある誰もが言うだろう。

カナリア諸島

ランサローテ島の地下湖

モロッコ沖にあるスペイン領カナリア諸島へはそう簡単には行けないと思うかもしれない。しかし、多数の国際航空会社が3つの主要な島に直行便を運航している。スペイン最高峰のテイデ山があるテネリフェ島とグラン・カナリア島、ランサローテ島だ。これらの島では、目がくらむような風景を見ながらハイキングしたり、石畳の小道沿いでショッピングを楽しんだり、のんびりビーチで本を読みながら横になったりすることができる。

もし1つの島にしか行く時間がないなら、ランサローテ島がおすすめだ。海沿いにはグランドハイアット、丘陵地帯の奥には同グループのアリラが2025年にオープン予定だ。ワイナリーで有名なラ・ヘリアの近くには、セザール・ランサローテというデザイン性の高いブティックホテルが最近完成した。

郷土料理である白身魚やカナリア黒豚を味わうために、ぜひレストラン・パラシオ・イコで食事をしてみてほしい。また、人里離れた美しいファマラビーチではサーフィンができる。

ベストシーズン

3月のカナリア諸島は、まだ寒さの残る冬の天候から逃れるには絶好の場所だ。また10月と11月も、ハリケーンシーズン中のカリブ海の代わりに温暖な気候を求めている人には最適だ。

避けた方が良い時期

あえて言うなら、カナリア諸島に行くのに悪い時期はない。1年を通じて素晴らしい気候で知られる諸島だ。ただし、12月は注意が必要だ。雨期の真っただ中で、さらに年末に観光客が押し寄せるためホテルの料金が高騰する。

バハマ・アウトアイランズ

エルーセラ島の「Potlatch Club」

バハマの700の島々のうち人が住んでいるのは30程度に過ぎない。そのうち都市化が進み巨大なクルーズ船用の港があるのは、ニュープロビデンス島のみだ。

同島とグランドバハマ島以外で知られているのは「アウトアイランズ」。手つかずのビーチやマングローブの茂る島のある地域で、小型ターボプロップ機でアクセスできる新しい高級リゾートも多い。

来年はアバコス諸島のプライベートアイランドに、レジデンシャルリゾート「モンタージュ・ケイ」が完成する予定だ。 推定費用は6800万ドル(約110億円)に上り、スイート50室やマリーナ、7つのプライベートビーチが設けられる。

ベストシーズン

ピークシーズンは12月中旬から4月中旬まで。この時期は天候に恵まれるが、混雑が激しい可能性はある。11月あるいは4月下旬なら、比較的ホテル料金が安く混雑も少ない理想的な条件となる。

避けた方が良い時期

夏は大西洋のハリケーンのピークとなる。春休みの旅行者が大挙して訪れる3月と4月初旬も避けた方が良い。

エジプト

ギザの大エジプト博物館

ファラオ(古代エジプトの王)が眠る国は、目まぐるしいほどの観光ブームに沸いている。中東地域の争乱にもかかわらず、2024年には1500万人が訪れ、このままいけば外国人観光客の記録更新が見込まれる。プレビュー公開中の大エジプト博物館は、グランドオープンに高い期待が寄せられており、観光の活気は今後も続くはずだ。同博物館は20年近く建設が続けられてきたもので、ギザのピラミッド群から1マイル(約1.6キロ以内)足らずの場所に10万点余りの出土品・遺物が収蔵される予定。黄金のマスクや石棺など、ツタンカーメン王の貴重なコレクション5000点全てが単一のギャラリー(陳列室)に展示され、博物館の最大の見どころになると期待される。

莫大(ばくだい)な投資によって、この国には驚くような現代的設備も数多く生まれている。空港近くには、252室の豪華客室を備えたウォルドーフ・アストリア・カイロ・ヘリオポリスがオープンしたばかり。インドを拠点とする高級ホテル大手オベロイは、伝統的に王族のためにつくられた豪華ヨット2隻で、VIP客をナイル川に案内する準備を進めている。常駐のエジプト学者とバトラー(執事)フルスタッフを除いても、七つのリバービュー客室で14人のゲストを収容できる。プールバーとインタラクティブキッチンを備えたレストラン、船上スパも完備する。

エジプトならではのブランドの宿泊施設が、最も心を躍らせるかもしれない。2021年にナイル川でガラス張りのパノラマ船の運航を開始したカザジアンは、ヘリポートを備えた船でクウェートとカタールの王族を既に迎えている。

ベストシーズン

11月から3月にかけ長期の観光にとって最も快適な天候が続き、(激しくない)暖かな陽光が降り注ぐ。

避けた方が良い時期

猛暑に耐えられない限り、気温がカ氏100度(セ氏約37.8度)をしばしば超える夏の数カ月は避けるべきだ。とはいえ、最も混雑しない時期に観光地を見学したいなら、個人用の冷却装置を携帯し、ホテルのプールで頻繁に休憩を取る計画を立てるとよい。

レキシントン(米ケンタッキー州)

「ザ・マンチェスター」の部屋

競馬と凝ったデザインの帽子、そしてバーボン街道:伝統に満ちたレキシントンは25年6月に250周年を迎える。急速に進化する南部の見どころを駆け足で経験できる機会だ。3550万ドルを投じて36キロメートルもの歩行者・自転車専用道路が整備され、近く開通の式典が行われる。景色の美しいケンタッキー川のほとりと、蒸留酒製造所地区やレストランが立ち並ぶダウンタウンなど、この街で最も魅力的な地区の行き来がしやすくなる。

アフリカ系米国人の歴史をひもとく興味深いウオーキングツアーも、各種内容が充実している。競馬界に黒人騎手がいたことはご存じだろうか。かつて奴隷や使用人が人目を忍んで行き来していた歴史的な路地を訪ねるツアーもある。黒人経営の蒸留所としては同州で先駆者的存在の「フレッシュ・バーボン」では、カクテルを学ぶことも、テイスティングに参加して料理とのペアリングに舌鼓を打つこともできる。6月には黒人所有のレストランをフィーチャーした「ソウルフィースト」が10日間にわたって開催される。ヒップホップをテーマにしたブランチや、黒人所有のオーガニック農園から直送された新鮮な食材を生かした料理はいかがだろうか。

ミュージックシーンも見逃せない。レキシントンはナッシュビルに匹敵する音楽の都となっている。ベイカー・ブランケンシップといったカントリーミュージックの新星がコンサートを予定するライブハウス「ザ・バール」や、マンチェスター・ミュージックホールに行くなら、レキシントン初のブティック式ラグジュアリーホテル「ザ・マンチェスター」が便利だ。5月には有名なケンタッキー・ダービーが世界の注目を集める。ルイビルから車で90分のチャーチルダウンズ競馬場に足を運べば、世界的人気歌手テイラー・スウィフトの姿を目撃できるかもしれない。ボーイフレンドがオーナーになっている「スウィフト・デリバリー」が出馬すると予想されているからだ。

ベストシーズン

レキシントンが最も輝くのは4月と9月。5-8月の夏は蒸し暑いが、屋外コンサートやアートフェスティバルがめじろ押しで、価値ある旅行を約束してくれる。

避けた方が良い時期

特に悪い季節はないが、1月は寒い。しかしその分、価格は安く抑えられている。それに寒さを口実にバーボンをおかわりするのも名案だ。

ロッテルダム

ロッテルダムのデルフスハーフェン地区

ロッテルダムは、アムステルダムやハーグなど知名度に勝るオランダ他都市の影に隠れ、観光地としては長らく目立たない存在だった。だが、運河や鉛筆の先のようなとがった家屋など、人気都市と同じ魅力を備え、近く世界的なレベルの博物館が2つ開館する。オランダの玄関口であるスキポール空港からは電車で30分と近く、観光もしやすい。

まずは、5月にオープンする博物館「フェニックス(Fenix)」を紹介したい。移民や異文化交流をテーマに、第1次大戦後に初めて難民向けに発行されたパスポートなどが展示されるほか、ウィリアム・ケントリッジ、スティーブ・マックイーンら現代芸術家の作品を収蔵する。

博物館屋上の展望デッキからは、ロッテルダム港が一望できる。この港からは外国で新たな人生を見つけようと300万人以上が旅立ち、その中には米国で成功したアインシュタインもいた。一方で多くの移民も到着し、文化的に多様な現在のロッテルダムを形作っている。

年後半に訪問するなら、オランダ写真博物館が再開館しているかもしれない。博物館は港に面した8階建てのコーヒー倉庫で、世界最大級の記録写真の収蔵を誇る。

ベストシーズン

春の終わりごろから秋口までは野外フェスティバルで街が活気づき、屋外のテラス席も爽やかだ。5月と6月は日没が午後11時となる日もあり、日が長く十分な観光時間を取れる。マース川沿いには楽しく飲める場所もたくさんある。

避けた方が良い時期

冬の間は寒くて雨が多く、空がどんよりとしているかもしれない。それでも街灯が暖かく、心地よい雰囲気を感じられるだろう。屋内で楽しめる観光施設も多い。

サンディエゴ

サンディエゴの「ラディシェル」

カリフォルニア州サンディエゴは映画「トップガン」の舞台やトップクラスのサーファーが住んでいることで有名だが、芸術の街へと進化しつつもある。サンディエゴ交響楽団の本拠地ジェイコブス・ミュージック・センターは改修作業が9月に完了し、「レイディ・シェル」と名付けられたエレガントなウオーターフロントの野外コンサート会場と並んで、目玉となっている。

拡張工事で生まれ変わったサンディエゴ現代美術館も、豊かな自然をもっと堪能したいという旅行者に人気だ。新しいギャラリーの巨大な窓からは、雄大な太平洋を一望することができる。(海を見渡せる新しいレストランは穴場で、ここでの昼食がお勧め)

名物ホテルでも相次いで改装が進められている。赤いビクトリア様式の小塔で有名なホテル・デル・コロナドでは模様替えが4月に完了する予定で、鮮やかな外観に刷新されるほか、75棟の海辺のヴィラや「ノブ」レストランが新たに加わる。エスタンシア・ラホーヤ・ホテル&スパは、かつての乗馬施設用地をアップグレードするなど、コンテンポラリーな牧場スタイルに変身した。これらはサンディエゴ動物園にやってきた2頭のジャイアントパンダに匹敵する呼び物かもしれない。

ベストシーズン

9月は海水もまだ温かいため絶好のシーズン。春にはワイルドフラワー、冬にはサーフィンといった季節ごとの魅力もある。クリスマスの時期までサーフィンを楽しみたいなら、海水温度が15度を下回ることがあるため、ウエットスーツを用意した方がよさそうだ。

避けた方が良い時期

晴天のサンディエゴは「避暑地」ではないかもしれないが、気候の「ゴルディロックス」とは言えそうだ。日中の気温は冬でも15度を下回ることがほとんどない一方、夏には特に沿岸部で30度を超えることがめったにない。

キャプフェレ(フランス)

アルカション湾の海岸線

高級リゾート地サントロペのきらびやかさにうんざりしているなら、新しい癒やしのスポットがキャプフェレだ。このボヘミアンシック漂う楽園は、大西洋とアルカション湾を隔てる半島にあり、新鮮なカキの屋台や巨大な砂丘、木造のカバナ(もちろん高級住宅もある)が点在している。いわば、10年前のニューヨーク州モントークのような場所だ。

グループ旅行なら、プライベートヴィラを借りるにも最適な場所だ。内陸にわずか65マイル(約105キロメートル)入れば、大都市のボルドーがある。この都市は世界的に有名なワイン産業の枠を超えて、「プチ・パリ」としてイメージを刷新しようとしている。郊外の伝説的なワイナリーが立ち並ぶエリアに、真新しいホテル「キャボット・ボルドー」もある。

ベストシーズン

6月と7月のゆったりとした魔法のような雰囲気を満喫しよう。混雑する8月は避けた方がよい。夏休みを柔軟に取れるなら、良い天気が続き、ボルドーのブドウ収穫の喧騒も味わえる9月もいいだろう。

避けた方が良い時期

11月から3月までの晩秋から冬にかけての時期は、静けさを求める人にとっては良い考えのように思えるかもしれない。ただ、10月を過ぎるとレストランやホテルのほとんどが閉まってしまうため、理想的な計画とはいえない。

アンティグア・バーブーダ

アンティグアの「カーテンブラフ」

2024年にカリブ海諸国の中で経済成長が最も速い国として国連に指定されたアンティグア・バーブーダは莫大(ばくだい)な投資を享受しており、10億ドル(約1570億円)を投じて2023-25年に新しいホテルがオープンする予定。ハリウッドスターのロバート・デ・ニーロが11月にオープンするホテルもある。

ラグジュアリーリゾートを展開するローズウッドやワン&オンリーのほか、エジプトの富豪ナギーブ・サウィリスによるリゾートなども計画されており、リゾート開発の勢いがすぐに衰えるとは想定しづらい。東海岸のほとんどの主要空港から直行便で4時間ほどで訪れることができるのも魅力だ。

ベストシーズン

温暖で乾燥した時期に当たる12月-4月がベストだが、最も混雑する。5月は快適な日々が続き、観光客はそれほど多くなく、料金も手頃だ。

避けた方が良い時期

大西洋のハリケーンシーズンは6月-11月までで、この時期は閉店や休業が多い。価格が優先なら、夏季に賭けてもいいかもしれない。

ローマ

フォリ・インペリアリ通り

ローマ教皇フランシスコは2024年12月24日夜半、サンピエトロ大聖堂の「聖なる扉」を開き、2025年の「聖年(ジュビリー)」が始まった。26年1月6日に同扉が閉じられるまで続く。聖年は25年に一度のカトリックの一大行事で、開門の儀式は世界中の信者への救済の象徴として行われている。

ローマでは、14億ドル(約2200億円)に上るインフラ投資が完了し、宗教に関心のない旅行者にとっても市内の観光がより楽しく、より身近なものになった。

これらの資金は、ナボーナ広場の3つの噴水の修復、サンタンジェロ城として知られるハドリアヌス帝廟(びょう)とバチカンの周辺の緑地整備、ローマ遺跡の下を通る総工費30億ドルのメトロC線の主要駅の命名式などに充てられた。交通渋滞の緩和に加え、地下鉄のポルタ・メトロニア駅とフォリ・インペリアリ・コロッセオ駅は考古学博物館としても利用され、ガラス張りの壁越しに古代の歴史を眺めながら列車を待つことができる。

さらに、コロニア、ローズウッド、ノブ、オリエント・エクスプレスといった魅力的なホテルが続々とオープンしている。また、ザハ・ハディド氏の最後のプロジェクトの一つである74室のホテル、ロメオ・ローマもオープンした。このホテルは、ポポロ広場近くの16世紀の宮殿内にあり、複数のプールと屋上ラウンジを備えている。

ベストシーズン

2月、3月、10月、11月が観光に最適な時期だろう。人気のレストランでも数カ月前から予約を入れる必要はなく、混雑も避けられる。

避けた方が良い時期

7月末から8月初めにかけては、100万人もの参加者が見込まれる「ユース・ジュビリー」が開催される。

バンコク

「デュシタニ・バンコク」

タイの首都バンコクは、どのようにしてバックパッカーの楽園から超富裕層向けのオアシスへと10年の間に変貌を遂げたのだろうか。

現地に行けば、その答えが分かるかもしない。米HBOのドラマ「ホワイト・ロータス」はタイがシーズン3の舞台となる。バンコクのステータスが急上昇していることを証明する十分な証拠となるだろう。

マンダリンオリエンタルは最近、9000万ドルを投じて改装したばかりで、このドラマにも一瞬だが登場する。バンコク有数のホテルであるマンダリンオリエンタルは、クリスタルで覆われたロビーとチャオプラヤ川に面した2つのプールを備えている。

HBOの撮影には間に合わなかったものの、バンコクでは他の高級ホテルも次々とオープンしている。

大使館や高級住宅が立ち並ぶプルンチット地区では、ジャンミッシェル・ギャシー氏がデザインした「アマン・ナイラート・バンコク」がまもなく開業する。

一方、これまであまり注目されていなかったバンケオ地区には「シックス・センシズ・ザ・フォレスティアス」がオープンする。ビジネス街の中心部から東に約10マイル(約16.1キロメートル)の森の中にひっそりとたたずむウェルネスに重点を置いた会員制クラブと共に地図に載ることになる。

13億ドルを投じた改装工事を経て、2024年9月に再オープンした「デュシタニ・バンコク」は、香港のアンドレ・フー・スタジオによるモダンなタイのインテリアが売りだ。25年中に最終的な完成を迎え、5年がかりの改装となる。

新たにオープンするのは高級ホテルだけではない。誰もが気軽に探索できるスペースも拡充する。

10月にオープンした39億ドル規模の超高層ビル複合施設「ワン・バンコク」は、ルンピニ公園を見下ろすようにそびえ立ち、3つのショッピングモールが連なる。250軒以上のレストランや、アニッシュ・カプーア氏やトニー・クラッグ氏らのパブリックアート作品が並ぶ1マイルにわたるループもある。

地下鉄の延伸や市内を流れる水路の美化も進み、ハリウッドスターのようなわがままな観光客たちが幾度となく訪れる理由は幾つもある。

ベストシーズン

1年中蒸し暑いバンコクだが、11月から2月の乾期は、うだるような暑さから少し解放される。

避けた方が良い時期

モンスーンによる7-9月の降雨は、しばしば交通網を完全にまひさせる。4月前後に最高気温をもたらす熱波は、バンコクをまるでホットプレートのようにする。

コロンビアのアマゾン

コロンビアのアマゾン

コロンビア南東部の奥深く、アマカヤク国立公園付近に「ノマドロッジ」がオープンした。野心的なエコツーリズムプロジェクトで、手つかずのジャングルに容易にアクセスできるだけでなく、このエリアに住む先住民コミュニティーも支援する。ソーラーパネル付きバンガローで宿泊できるのは、一度にわずか8人。宿泊客は、夜明けにピンクイルカがたくさんいる水没林をカヌーで巡り、暑い日中にはハンモックでくつろぎ、夕暮れ時には生い茂る木々の中から眠っているナマケモノを探す。

ここに来るだけでも冒険だ。ボゴタから飛行機で2時間かけてレティシアに向かい、その後、さらにボートで2時間かけてアマゾン川をさかのぼる。アマゾンの熱帯雨林にもっと浸りたい旅行者には、ノマドロッジからペルーのイトキスに隣接するロッジまで水上飛行機で送るサービスもある。

ベストシーズン

洪水などの被害が多い11-5月を避け、6-10月の乾期に訪れる方が理にかなっていると思うかもしれない。だが、両時期の雨量はさほど変わらない一方、野生生物を観察するには11-5月の方がはるかに適している(虫よけスプレーを忘れずに)。

避けた方が良い時期

ハイキングを好む人にとっては、トレイルへのアクセスが容易な乾期が最適だ。ただし、深刻な水位低下で移動が困難になる9-10月は避けるべきだろう。雨量が最も多い1月も控えた方が無難だ。

ジャイプール

ラッフルズ・ジャイプールの「ザ・ライターズ・バー」

インド北西部ラジャスタンを治めた君主サワイ・ジャイ・シン2世は1700年代初期、新たな首都ジャイプールに手の込んだ寺院や砂岩を用いた宮殿を整備するため王国中の熟練の職人を動員した。そして現在、元王室の一員パドマナブ・シン氏(26)と妹のゴウラビ・クマリ氏は「ピンクシティ」の名で知られるジャイプールの美の遺産を永続させようとしている。

シン氏は11月に内外の現代美術を展示するジャイプール・センター・フォー・アートを開館。12月には宮殿の中庭に高級レストラン「サルバト」をオープンした。クマリ氏の宝石をモチーフにした新たなコンセプトショップ「パレス・アトリエ」は買い物ができる美術館といった様子だ。地元産の家庭用品やデザイナーが手掛けたサリー、高級ジュエリーを扱う。

街の最新ホテルでさえ、古くからの職人技からデザインのヒントを得ている。アナンタラ・ジュエル・バグは3月、街のすぐ南にオープンする予定で、インドのトワル生地で覆われた150の客室と、大規模な結婚式にも対応できる壮大な空間が特徴だ(ボールルームは2500人収容)。それとは対照的な規模では、常に予約でいっぱいの5室のジョフリが、それぞれ宝石をテーマにしたスイートルームを3室増設した。そのちょうど中間に位置する50室のエレガントなラッフルズ・ジャイプールは、ゼナナ(女性の宮殿)をモデルにしている。昨年夏にオープンしたこのホテルは、典型的なムガール建築のチャトリ(野外パビリオン)に囲まれた夢のような屋上プールを備えている。

ボーナス:12月15日現在、アブダビからエティハド航空で週4便のフライトが就航している。これにより、ジャイプールとその王室の暮らしが一層身近なものになる。

ベストシーズン

10月は特にエキサイティングで、気温がようやく過ごしやすいところまで下がり、地元の人々は「ディワリ」のお祭りを迎える。その好天はこの「光の祭典」よりもずっと長く、3月まで続く。

避けた方が良い時期

5月と6月は猛烈に暑く、最高気温はカ氏100度(セ氏約38度)を超える。モンスーンの季節は7月から9月まで続くが、インドの他の地域ほど劇的に雨が降ることはない。この結果、非常に緑豊かな風景が見られる。

セビリア

セタス・デ・セビリア

スペイン・アンダルシア州の州都セビリアは、同国でバルセロナ、マドリッド、マヨルカ島に次ぐ観光スポットだ。主要空港がないことで長らく見過ごされてきたが、文化的な魅力あふれる街としてここにきて人気が高まっている。年間300日もの晴天に恵まれるセビリアは、フラメンコ発祥の地であり、ムーア様式とバロック様式の美しい建築物が混在する。世界最大級の木造建築「メトロポール・パラソル」も圧巻だ。

いずれも混雑する定番スポットではなく、個性あふれる穴場を求める旅行者にお勧め。一方、1泊200ドル以下のスタイリッシュなブティックホテル2軒は、観光地としてのセビリアの魅力を高めている。ヴィンチ・セレクション・ウヌクに宿泊するなら、午後に屋上デッキでゴシック様式の尖塔(せんとう)が並ぶ街の大聖堂を目の高さでぜひ眺めたい。曲がりくねった石畳通りが続く街の中心部へのアクセスを重視するなら、スカンジナビア風のインテリアが特徴のオーシャン・ドライブ・セリビアに宿泊を。

ベストシーズン

気温が穏やかな春が理想的。5月初旬にはセビリア・フェアが開催され、街は祝祭ムードに包まれる。地元住民が最もカラフルなフラメンコドレスに身にまとうなど、1週間にわたって祭りが続く。初秋も天候的には最適だが、イベントは少なめ。

避けた方が良い時期

7-8月は猛暑に見舞われる。しかも、セビリアには暑さをしのぐためのビーチや涼しい海風はない。

サントメ・プリンシペ

サントメ・プリンシペ

サントメ・プリンシペは、アフリカ大陸の西方、赤道直下の海岸沖に浮かぶ二つの火山島から成る共和国だ。南アフリカの大富豪マーク・シャトルワースは、この国を「アフリカのガラパゴス」と呼んでいる。真珠色のビーチにジャングルが迫り、ジュラ紀を想起させるヤシの木や、かやぶき屋根、エメラルドグリーンの丘が景観を彩る。海は一年中暖かく、ギニア湾特有の珍しい生物の宝庫だ。陸を歩く魚もいる。

ソフトウエア企業の幹部であるシャトルワース氏は、プリンシペ島で1980年代に建てられた個人の別荘など四つの建物をホテルに変身させた。そして5000万ドル(約79億円)を投じて島のエコツーリズム産業を築き上げ、各リゾートを本格的な5つ星ホテルに変えようとしている。まずは9月にリオープンした18棟の低層バンガロー「ボンボン」からだ。

ベストシーズン

赤道に近いことから年間を通じて気温はセ氏21-27度で安定している。1-2月は海岸で子ガメがう化する時期だ。

避けた方が良い時期

最も降水量が多いのが10-11月で、その差は歴然だ。雨が多いメリットとしては、この地域の暖かい海でザトウクジラが戯れているかもしれないことだ。

ロンドン・地下鉄エリザベス線

カナリーワーフの「Hovarda」

ロンドンで最近開店した注目のホテルやレストランの多くには、共通点が一つある。それはどれも、2022年に開通した地下鉄エリザベス線に近いと言うことだ。

ロンドン中心部の「ボンドストリート」駅の近くには、旧米国大使館を改装した超高級ホテル「チャンスリー・ローズウッド(Chancelly Rosewood)」がオープンした。ホテルは146室で、併設されるレストランの一つはニューヨークでセレブが集まることで有名な「カーボーン(Carbone)」、もう一つはロンドンの伝説的な人気レストラン「ル・カプリス(Le Caprice)」の復活と、いずれも話題を呼びそうだ。

数駅離れた「リバプール・ストリート」駅には、市内で最も高層のビショップスゲート22番地の新オフィスビルに、有名シェフのゴードン・ラムジー氏がレストラン5店を構える。そのうちの一つで、60階に開店予定の「ラッキー・キャット」は市内で最も高層階のダイニングスペースになる。

金融街もあるロンドン東部の新たな飲食エリア「カナリー・ワーフ」駅周辺も見逃せない。開店したての「ホバーダ(Hovarda)」では、羊肉のローストや蒸留酒ラクなど、エーゲ海料理が楽しめる。テムズ川に浮かぶフランス料理屋「マルセリーヌ(Marceline)」では、ドーバー海峡で取れた舌平目やムール貝などを味わうことができる。

ベストシーズン

11月にはクリスマスの飾りやイルミネーションが始まり、年末にかけておとぎの国のようになる。観光シーズンのピークの前に当たる5月や6月も心地よいだろう。ただし、傘は忘れずに。

避けた方が良い時期

ロンドンと聞いて誰もが連想する、霧雨の降る暗い空は2月と3月が特に多い。

パロス島とアンティパロス島(ギリシャ)

「ル-スター・アンティパロス」のレストラン

キクラデス諸島は観光地として人気があるが、その魅力はサントリーニ島の夕日やミコノス島のクラブミュージックにとどまらない。 ドラマチックな岩の海岸線や、青と白のコントラストが鮮やかなしっくい塗りの街並み、何キロも続く小石のビーチが広がる小島が無数にある。

エーゲ海の新星として注目されているのは、ブーゲンビリアが咲き乱れるパロス島とアンティパロス島。フェリーに5分も乗れば2つの小さな離島を行き来できる。石造りの壁に囲まれた村を訪れたり、紺碧(こんぺき)の海を眺めながら肌を焼いたり、富裕層に人気のスポットだ。ナウサの町ではミコノス島に引けを取らない活気のあるナイトライフを、ずっと手軽な値段で楽しめる。

現地のホテルシーンはその魅力に磨きをかけた。観光ずれしていない島の西側に位置する「ル-スター・アンティパロス」はパイオニア的な存在だ。ここの豪華な17部屋が満室なら、パロス島の海岸からわずか150メートルに位置する「アンドロニス・ミノワ」はいかがだろうか。このホテルはこの1年でテラス付きの部屋を44部屋増築した。この2島に行くなら、タイミングは今だ。他人の存在を気にせず、絶景に心を奪われること間違いない。5000年前に立てられた劇場と、約4500万年前にでき、あの世とつながっているとされてきた古代の洞窟は特にお薦めだ。

この静寂はそう長く続かない。パロス空港では4500万ドルをかけて滑走路の延長工事が進行中。2026年夏までには国際直行便の受け入れが始まる。大勢の観光客が乗り込んでくるようになる前に、旅を楽しむのが賢明だ。

ベストシーズン

9月と10月上旬はまだ海水が温かく、日差しも十分にあるが、価格は8月よりずっと安い。

避けた方が良い時期

学校が休みの7月と8月は料金が跳ね上がる。冬はフェリーが減便される。

グリーンランド

キャンプ・キアトゥア近くを歩く人々

巨大な氷山や広大なツンドラ、壮大なオーロラなど、グリーンランドでは観光客が押し寄せるアイスランドと同様、大自然の醍醐味(だいごみ)を味わうができる。しかし、グリーンランドを実際に訪れて氷河や氷山などの神秘的な風景を目にする人は数少ない。

デンマーク領であるグリーンランドの観光客は通常、数時間しか上陸できないクルーズ船で訪れることが多い。2023年には74隻の船が計183回、グリーンランドに寄港した。これは前年比で64%増だった。

しかし現在、よりディープな観光がはるかに手軽に楽しめるようになりつつある。24年11月下旬にグリーンランド初の国際空港が南西海岸付近の政庁所在地ヌーク(訳注:政庁所在地は世界年鑑参照)にオープンし、デンマークの首都コペンハーゲンから週5便運航されることになった。さらに26年末までにイルリサットとカコトックにも空港が完成する予定で、クルーズ港への依存度が低減される見込みだ。

この空港増設を受け、英ブラック・トマトなどの旅行会社はグリーンランドのあまり知られていない土地の文化や自然にスポットを当てるツアーの提供を開始した。サッカクでキノコやベリーを採集したり、イルリサットで犬ぞりに乗ってツンドラを走ったりした後、カンゲルルススアークにある世界で2番目に大きい氷床までハイキングし、ヌークに戻ってグリーンランド流のモダン・スカンジナビアン・キュイジーヌを堪能するツアーだ。

豪華な宿泊施設はまだ少ないが、2カ所のグランピング施設を利用すればグリーンランドの大自然に簡単にアクセスでき、その魅力を存分に味わえる。ノマド・グリーンランドはディスコ湾に面したサッカクで、スカンジナビア風のインテリアを施したグランピング用ティピー(北米の平原インディアン部族が住居として用いていた円錐形テント)を提供。ブラック・トマトのツアーの多くは、ヌークからかなり離れたフィヨルドの奥にあるキャンプ・キアトゥアを拠点としている。サウナテントやホットタブが完備され、この地域のフィヨルドや氷山を間近に眺められるこのキャンプ場は現在も船ないしヘリコプターでしかアクセスできない。

ベストシーズン

7、8月には白夜が見られるほか、1年で最も気温が高いため内陸部への移動やハイキング、カヤック、ホエールウオッチングなどのアクティビティーを楽しみやすい。

避けた方が良い時期

10月から5月まで続く長い冬の間は豪雪や凍結、日照時間の短さにより夏季のようなアクティビティーは難しい。

アッパー・イースト・サイド(米ニューヨーク)

「ザ・カーライル」のベーメルマンス・バー

マンハッタンの高級住宅街として有名なアッパー・イースト・サイドでは、リニューアルがめじろ押しだ。1935年に開館した美術館フリック・コレクションは、初の改修工事を終えて2025年初頭に営業を再開する。20世紀初頭の豪邸を生かした同美術館は改修の一環として2階を一般公開し、カフェを併設し、かつては緑豊かだった庭園を都会のオアシスとして復元する。

ホテルシーンもアップグレードが進む。地元の定番ホテル「ザ・サリー」は欧州の高級ホテルブランドであるコリンシア・ホテルによって堂々たる改装が施され、セレブリティーでにぎわう近隣のホテル「ザ・カーライル」や「ザ・マーク」と競合するようになる。

注目のレストランも新たに登場している。ミシュランガイド掲載の江戸前すし店「Sushi Noz」を世に送り出したチームが新たに手掛けた「Chez Fifi」では、昔ながらのフランス料理を楽しめる。ホテル「ザ・サリー」の1階のレストラン「Casa Tua」は、デザイナーや企業幹部、社交界の名士など華やかな人々で四六時中賑わっている。

ベストシーズン

9月から10月にかけては夏の暑さから解放され、夏休みも終わっているため家族連れも少ない。ニューヨーク・ファッション・ウィークのようなイベントも盛りだくさんだ。

避けた方が良い時期

4月と5月は雨が多く、肌寒い日もあって天候が予想しにくい。夏休み前でニューヨーカーも地元に残っているため、レストランの予約も入りづらい。

原題:25 Best Places in the World to Visit in 2025(抜粋)

--取材協力:中村美樹、山口裕子、守護清恵、城塚愛也、木下晶代、笠原文彦、岩城伸也、松田英明、渡辺漢太、内田良治、杉山容俊、鎮目悟志、野崎ひとみ、亀山律子、宮井伸明、塩原るみ、西前明子、千葉 茂、森 茂生、大塚美佳、鈴木克依.

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