フランスの新政権の布陣が23日に固まった。首相を含む36人の閣僚のうち、マクロン大統領の中道政党「再生(ルネサンス)」が13人、バイル首相の中道政党「民主運動(MoDem)」が3人、フィリップ元首相の中道政党「地平線(ホリゾン)」が2人で、大統領を支持する中道勢力が合計18人で半数を占める。
残りの半数は、かつて二大政党の一角を占めたバルニエ前首相の中道右派政党「共和党(LR)」が6人、その他政党と無所属議員が9人、民間人が3人の構成。

バルニエ前首相が率いた前政権は中道3政党と共和党による非多数派政権で、極左政党「不服従のフランス(LFI)」や中道左派政党「社会党(PS)」など左派4党による左派勢力と、「国民連合(RN)」を中心とする極右勢力による内閣不信任で倒れた。
13日に後継首相に就いたバイル氏は政権基盤の安定を目指し、中道勢力と共和党に加えて、穏健左派政党にも政権参加や閣外協力を呼び掛けたが、その試みは失敗に終わった。
優先政策での溝が埋まらなかったとみられるうえ、移民規制の強化に積極的なルタイヨ内相(共和党)が留任することに穏健左派が反発した模様。
新内閣には左派4党から1人も加わらなかったが、レブサメン元労働相など旧社会党の無所属議員3人(ルネサンス所属の4閣僚もかつて社会党に所属)が入閣した。

なお、36閣僚のうち半数以上の19人がバルニエ前政権の閣僚経験者で(うちルコルニュ国防相、ダティ文化相、バロ外相など14名が続投し、労働保健相に就くヴォトラン地方分権相など5人が別の閣僚職に鞍替え)、司法相に就くダルマナン元内相(共和党)など9人が過去に閣僚に就いた経験があり(うち教育相に就くボルヌ氏と海外領土相に就くバルス氏の2人が首相経験者)、8人が閣僚未経験(うち3人は民間人)。
財政運営の舵取りを担う経済財務相には、大手銀行や保険会社を経て公的金融機関である預金供託金庫のトップを務めるロンバール氏(民間人)が就任する。

新内閣は年明け後1月3日に初の閣議を開き、14日にバイル新首相の所信表明演説を予定している。
極左政党を率いるメランション氏は、所信表明演説に合わせて内閣不信任案を再び提出する方針を固めているが、極右政党は新政権の政策の中身を吟味するとしており、この段階では内閣不信任案に投票しない意向を示唆している。とは言え、極右政党が政権存続の鍵を握る状況に変わりはない。
保健相への就任が有力視された共和党の有力政治家ベルトラン氏の入閣が見送られたのは、同氏との関係が険悪な極右からの働きかけがあったとされる。

バルニエ前首相の内閣不信任が可決したことに伴い、2025年度の予算案は廃案となった。特別立法の可決で当面は2024年度予算をそのまま引き継ぐことになるが、新政権は2月頃にも改めて予算協議を開始する意向を示唆している。
議会の過半数の議席を持たない新政権が予算を通すには、穏健左派の協力を求める過程で大幅な拡張予算を組むか、バルニエ前政権と同様に内閣不信任案とセットで議会採決を迂回する以外にない。
新政権の存続が改めて問われることになろう。国民議会(下院)の解散・総選挙が解禁される来年後半以降、再び選挙が行われる公算が大きい。

首相・閣僚経験者が連なる新政権の布陣は安定重視と言えるが、半数以上がマクロン大統領を支持する中道政党とバルニエ前政権の閣僚経験者が占め、首相自身も長年マクロン氏を支えてきた人物であることから、マクロン路線やバルニエ路線の継続と受け止められる恐れがある。
このことは次の選挙で反マクロンを掲げる極左や極右に有利に働く。政権発足に向けた新首相と主要政党との協議で表面化した極左と穏健左派の間の亀裂が決定的なものとなるのか、穏健左派が政権入りや閣外協力を見送ったことで改めて左派が統一会派を結成する余地があるのかに注目が集まる。
また、小数政党を率いるバイル新首相と選挙制度の壁に阻まれてきた極右政党は何れも、比例代表の要素を盛り込んだ選挙制度改正を長年求めてきた。新政権が選挙制度改正に動くかどうかも、次の選挙での極右の更なる伸張を見極めるうえで重要となる。

※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド) 田中 理