(ブルームバーグ):米国と中国との間で迫りつつある貿易戦争や台湾と南シナ海を巡る緊張、不安定な北朝鮮情勢が、2025年にアジアが直面する大きな政治的課題となりそうだ。
トランプ次期米大統領のアジア政策が多くのことを左右する。第1次トランプ政権で追求した「米国第一」の政策は同盟国との距離を広げる一方で、中国と北朝鮮に対する圧力を高めた。
波乱の年となりそうな25年、アジアの政治情勢において私が注目する5つのポイントは以下の通りだ。
トランプ、習氏の関係性が米中の行方左右
トランプ氏と中国共産党の習近平総書記(国家主席)に友好関係が戻るかどうかで、第2次トランプ政権における戦略的な米中間競争の行方が決まる。中国からの輸入品に少なくとも60%の関税をかけるというトランプ氏の威嚇が、習指導部の脳裏から離れることはないだろう。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は、これらの関税が最終的に中国の対米輸出を83%減らす可能性があると推定。経済成長の鈍化や不動産市場の低迷、雇用減少に直面している習氏は、貿易戦争のリスクを減らす方法を見つけようと躍起になりそうだ。
米国は中国の止まることのない軍拡に目を光らせているが、トランプ、習両氏の直接会談が早ければ早いほど、取引をまとめたい中国側にとってより良い結果と言えるだろう。
台湾はトランプ氏への対応に苦慮
習氏が決して交渉に応じないとみられるのが、中国が領土の一部と主張する台湾の問題だ。中国を49年までに世界をリードする超大国としたい習氏にとって、中台統一は自らが唱える「中華民族の偉大な復興」の一部だ。
一方、若者の大半が中国本土とは異なるアイデンティティーを求める傾向が強まっている台湾にとっては、存続の危機を意味する。
中国は24年5月に就任した頼清徳総統を「独立派」と見なし、米国によるどんな台湾支援であれ、越えてはならない一線を越える行為だと警告している。
頼氏はバイデン米大統領に対し、米国の防衛支援と一定の安全保障を期待することができた。しかし、トランプ政権となれば、何も保証されていない。台湾はさらなる軍備増強を迫られるが、同時に巧みな外交も展開しなければならない。
フィリピンと米国、揺らぐ同盟関係
米国に大きく依存しているフィリピンもまた、25年の険しい道のりに備える必要がある。両国の関係は今後も強固なままでいられるだろうか、それとも中国がくさびを打ち込むことができるだろうか。
「トランプ氏とは、まさに取引がなされることになる」とローウィー研究所(シドニー)の東南アジアプログラム担当ディレクター、スザンナ・パットン氏は私に語った。
トランプ氏は「自分が何を手に入れるか」を考え、それが「フィリピン政府が支援を必要とする場合に米政府が対応を迫られるかどうかを決定する」という。
こうしたシナリオ下で、マルコス大統領が今年果敢に挑んできた南シナ海における中国との争いをフィリピン単独で続けることは容易ではない。係争海域における中国の行動に対する圧力を維持することは、航行の自由を確保するために極めて重要だ。
北朝鮮とロシアは一段と接近か
ウクライナでの戦争、イスラエルとパレスチナの紛争、シリアの危機、好戦的な北朝鮮。こうした問題が25年の米外交アジェンダの上位に来るだろう。特に北朝鮮は、トランプ次期政権にとってアジアにおける最大級の難題となりそうだ。
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は核兵器開発計画の強化について度々発言。そして今や、その目標達成に向け、ロシアから協力を取り付けた。
金氏はその見返りとして、ウクライナとの戦争の最前線でロシア軍を支援するため北朝鮮軍の兵士を派遣。ロシアのプーチン大統領は敵対勢力の一掃を図っており、北朝鮮との協力関係が一段と強まる公算は大きい。プーチン氏は手に入る限りの人的資源を必要としている。
韓国の混乱は中国に好都合
北朝鮮とロシアの関係が深まる中で、南北境界線を挟んで北朝鮮と対峙(たいじ)する米国の同盟国、韓国では、尹錫悦大統領による12月3日夜の「非常戒厳」宣布を発端とする混乱が続いている。
韓国の混乱は始まったばかりで、数カ月以内の総選挙が想定されている。政権交代により、米国を重視する尹政権よりも、中国寄りの政権が誕生する可能性もある。
アジアは以前の米政権にとって、外交政策上の優先事項とされながらも、中国を除きしばしば軽んじられきたきらいがある。
バイデン氏はアジアにおける米国の存在感を回復させようと尽力した。トランプ氏は、その取り組みをさらに発展させる必要がある。米国がアジアに目を向けないことで、どれほど不安定な状況になるか、われわれはすでに経験済みだ。
(カリシュマ・バスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Asia’s 2025 Will Be a Year of Uncertainty: Karishma Vaswani(抜粋)
コラムについてのコラムニストへの問い合わせ先:Singapore Karishma Vaswani kvaswani6@bloomberg.netコラムについてのエディターへの問い合わせ先:Ruth Pollard rpollard2@bloomberg.net
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