(ブルームバーグ):米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は来週、連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の記者会見で、恐らく政治的な質問を受けるだろう。トランプ次期大統領が表明している減税や関税、不法移民の国外追放などの計画を、FRBは景気見通しや金融政策にどのように反映させるかという問いだ。
パウエル議長は11月の会見で、「推測や臆測、仮定はしない」と明確に返答した。今回はもっと微妙な言い回しが必要になるだろう。
実際、FRBは政治家が何をするのか仮説を立てることがあるし、そうしなければならない時もある。トランプ氏が大統領1期目に選出されたばかりで、筆者がFOMCの副議長を務めていた2016年12月に、FRBスタッフの予測は「議会は国内総生産(GDP)の1%に相当する個人所得税減税を可決し、翌年の第3四半期(7-9月)に開始する」と想定した。
当時、筆者はスタッフにパウエル氏が問われるであろう質問と同様のことを尋ねた。「貿易障壁の高まりや移民政策の強化に関して、考慮に入れる際の基準は何か」というものだった。その時の回答と金融当局内での経験に基づいて、筆者は4つの基準を考えている。
まず、政策シフトが起こる可能性が高くなければならない。
第2に、そのシフトが経済成長や雇用、インフレ、あるいは株価や金利などの金融状況に有意な影響を及ぼすほど大きいものでなければならない。
第3に、どのような政策になるか、ある程度明確でなくてはならない。16年12月には、関税の可能性は予測に織り込まれていなかった。当時、FRB国際金融局長だったスティーブ・カミン氏が、その可能性は「あまりにも不確実」で、それらの規模を「測るのは非常に困難」と指摘したため、スタッフは「考慮に入れないことを選択した」。
第4に、株式と債券市場が政策シフトを予想するようになった場合、無視し難い。減税が16年12月の予測に反映されたのはそれが一因だ。「金融市場参加者は何かが起こりそうだと判断していたのが明確だった」と、当時FRB調査統計局長を務めていたデービッド・ウィルコックス氏は語った。そのような見通しを予測から除外すれば、極度に煩雑かつ「複雑なプロセス」になるだろう。
では、パウエル氏はどうすればいいのか。同氏は2016年の例を踏襲すると筆者は考える。FRBは2017年減税の延長を見込んでおり、それを予測に織り込んだが、関税や移民国外追放に関する調整は行っていないと、同氏は説明するだろう。減税延長は可能性が高く、規模も大きいため、これを反映させるのは理にかなう。一方、貿易と移民政策は16年当時と同様、まだ極めて不確実性が高い。
パウエル氏はこれらがFOMCの四半期経済予測(SEP)にどのような影響を与えるのか示すことはできないだろう。FOMCメンバーはFRBスタッフの見通しに縛られないためだ。とはいえ、メンバーはおおむねスタッフに倣い、現行の税制継続のみを反映させると見込まれる。その結果、増税や関税、国外追放による成長率やインフレ率、生産性、労働供給への悪影響はなく、予測はバラ色になるだろう。
具体的には、景気モメンタムの持続と生産性の伸び加速傾向を反映し、2025年と26年の成長率予測は中央値で9月時点の予測よりも若干上方修正されると見込まれる。失業率は、物価安定と整合的だとFRB当局者が判断する水準を若干上回って推移するだろう。インフレ率がFRBの目標である2%まで低下するのは、26年になる可能性が高い。26年か27年までに、フェデラルファンド(FF)金利は当局がインフレ率2%と整合する中立水準と見なすレベルに低下するだろう。この軌道をたどると、25年の利下げ幅は50-75ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)にとどまる可能性が高い(24年9月時点の予測では100bpが見込まれていた)。中立金利はやや高めで、おそらく3%以上となるものの、先物価格が現在示唆する水準よりはかなり低い。
基本的なシナリオは9月時点と同じになるだろう。労働市場が緩み、インフレが後退するにつれて、金融政策は徐々に景気抑制的なものから中立的なものに移行し、ソフトランディングを達成する可能性が高いという筋書きだ。トランプ次期政権の関税・国外追放政策が焦点になってくると、この見通しはそれほどバラ色ではなくなるかもしれない。
(ニューヨーク連銀の前総裁、ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:The Fed Can’t Ignore All of Trump’s Intentions: Bill Dudley(抜粋)
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