生産拠点としての圧倒的な魅力を持つベトナム
(1)第一次トランプ政権下での対中関税引き上げが契機
米中対立が激化し、米国による対中圧力は強まる一方にある。2017年から4年続いた第一次トランプ政権下では、対中制裁関税が4段階で発表された。米国は中国からの輸入品に対して最大 25%の追加関税を課すなど、米国内の産業保護を目的に多くの中国製品の関税を大幅に引き上げた。こうした関税政策は中国が関与するビジネスのあり方を大きく変化させ、グローバル企業は中国を中心としたサプライチェーンを見直し、中国拠点を他の地域に移転させる動きを強めた。その後のバイデン政権下では、経済安全保障の観点のもと、先端技術産業における米国の競争力維持が通商政策の中心となった。その結果、中国を西側経済圏から切り離す機運がさらに高まり、サプライチェーン再編の動きは加速している。
このような流れを受けて米国の貿易構造は大きく変化している。米国の輸入全体に占める中国のシェアは2017年の21.6%から2023年の13.9%に低下した。逆に中国以外のアジアやメキシコ・カナダのシェアが大きく上昇しており、なかでもベトナムのシェアが大きく拡大している。これは、中国製品がこれらの国・地域を経由して輸出されたほか、中国から生産拠点の移転が進んでいることを反映している。

米国において、中国からの輸入が大きく減少した商品をみると、音声・画像受信機でベトナムからの輸入が最も増加したほか、機械部品やテレビなどもベトナムの増加幅が大きく、ベトナムは電機産業を中心に、中国に代わるグローバルな生産拠点としての機能を高めたことがうかがわれる。
(2)第二次トランプ政権下でもベトナムへの生産移転が有力
トランプ氏が再選されたことで、米国の保護主義的な政策がさらに強化されることが予想される。実際、トランプ氏が公約に掲げた政策には、対中制裁関税を60%まで引き上げることが含まれている。これにより、先行きグローバル企業は中国を避ける動きを一段と強めることになろう。 公約通りに対中制裁関税が課される場合、引き続きベトナムが大きな恩恵を受けると見込まれる。既に関税対象となっている商品で生産移転の動きが一段と進むことに加え、新たに関税対象に加わる商品でも生産移転の動きが生じることになろう。米国による輸入について、中国からの輸入が大きく増加した商品を国別にみると、パソコンやスマートフォンなどは、ベトナムの増加額も大きく、中国製品に対し十分な競争力を持つことが示唆される。つまり、ベトナムは現時点で関税の影響が小さい商品についても、追加関税の範囲拡大により米国の輸入に占めるシェアを中国から奪う有力候補である。
こうした流れは、これまでの「チャイナ・プラスワン」の動きの延長線上と言える。2000 年代以降、中国の人件費高騰や労働争議などを背景に、各国の企業は中国以外の国・地域へ投資を分散する経営戦略「チャイナ・プラスワン」を進めてきた。昨今の脱中国の動きはこの流れを加速させる要因となり、米国をはじめとする先進国は、中国との経済関係が弱まる一方、中国周辺のアジア諸国などとの関係を強める方向にある。なかでも、ベトナムの存在感が高まっているのは、①安価な労働力、②中国との近接性、③貿易協定の締結など輸出環境の整備、といった点を背景としており、他のアジア諸国よりも生産拠点の移転先として高い優位性がある。