(ブルームバーグ):政府は22日の臨時閣議で、物価高への対応や所得向上などを柱とする総合経済対策を決定した。財政支出の規模は21兆9000億円。「経済あっての財政」を掲げる石破茂政権は昨年を上回る大型の対策をてこに持続的な経済成長を狙うが、政権基盤が弱く野党の歳出圧力が強まる中、財政健全化に向けて多難な道のりが予想される。
財政支出の内訳は「日本経済・地方経済の成長」に10兆4000億円、「物価高の克服」に4兆6000億円、「国民の安心・安全の確保」に6兆9000億円。民間資金も合わせた事業規模は39兆円となる。経済対策を裏付ける今年度補正予算は一般会計で13兆9000億円程度と見込まれる。

今回の対策は、自民・公明両党が先月の衆院選で過半数を割り込み、政権運営に野党の協力が欠かせない構図の中で組まれた。財源の見通しが立たないまま、衆院選で躍進した国民民主党の「年収の壁」引き上げ要求を受け入れる形で決着。石破政権の今後の財政運営の課題が浮き彫りとなった。
大和総研の神田慶司シニアエコノミストは「コロナ禍以降当たり前になった大型補正予算の規模を縮めていくだけでもハードルが高い」が、「少数与党となった今は野党の声を一定程度聞かなければならないため、財政健全化は一層難しくなることが予想される」と指摘した。
経済対策には賃上げ環境の整備や住民税非課税の一世帯当たり3万円の給付金に加え、冬場の電気・ガス代補助や子育て支援などを網羅的に盛り込んだ。政府は対策の効果として、実質国内総生産(GDP)を年率換算で1.2%程度押し上げると試算。消費者物価は0.3%ポイント程度抑制されるとみている。
PB黒字化目標
政府は、社会保障や公共事業といった政策的経費を税収などでどれだけ賄えているかを示す基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の25年度黒字化を目標に掲げている。
加藤勝信財務相は臨時閣議後の会見で、25年度のPB黒字化見通しについて、新たな経済対策の執行時期のほか、来年度予算編成における歳出改革の取り組みや税収などに影響されるため、現段階で「申し上げる状況にはない」と述べるにとどめた。
内閣府の7月時点の試算では、25年度に8000億円の黒字に転じる見通しだった。今回の対策に伴う補正予算の執行が来年度にずれ込めば達成は危ぶまれる。さらに「年収の壁」対応は恒久的な財政赤字要因となるため、目標未達の可能性が高まりかねない。
東京大学の内山融教授は、日本銀行による金融政策の正常化が進む中で、国債金利が上昇する恐れがあることから、財政健全化の道を見据えることが一番の懸案と指摘。その上で、大型の経済対策を策定し、「年収の壁」引き上げによる所得減税を実施すると「プライマリーバランスの黒字化は遠のく」との見方を示した。
(詳細と加藤財務相の発言、専門家のコメントを追加して更新しました)
--取材協力:横山恵利香.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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