化石燃料に代わる次世代エネルギーの調達に総合商社が力を入れている。既に取り組む洋上風力発電の開発に続き、水素やアンモニアの分野でも政府がきょう公募を始める補助金などを活用し、製造や輸入の体制を整備する考えだ。

ブルームバーグが各社の補助金への申請状況をまとめた所、三菱商事や伊藤忠商事、住友商事は検討していると回答した。5大商社はいずれも既に水素やアンモニアの供給プロジェクトに取り組んでいる。コンビナートなどの工業地帯が対象エリアで、需要家となる電力や化学産業と連携する。

商社は石炭や石油など化石燃料の取引を手掛けてきた。脱炭素化への移行期の活用が見込まれる天然ガスを除けば、既存のビジネスは気候変動対策に伴って拡大が難しくなることが予想され、次世代エネルギーへの転換を急いでいる。例えば、三菱商は2030年度までに脱炭素に向けて2兆円規模を投資すると公表。政府が事業者を募る洋上風力発電の分野でも、商社は存在感を示していた。

水素・アンモニアは燃やしても二酸化炭素(CO2)を排出しない利点がある。燃料電池車や水素火力発電といった用途が想定されている。富士経済の調査では、水素の用途開発や供給網が確立されることで、30年度の水素関連市場は3963億円と19年度比で30倍超に膨らむと試算する。

このほど政府が公募を始めた補助金は「価格差に着目した支援(値差支援)」と呼ばれ、水素やアンモニアなどの製造、輸入にかかるコストを補助する。今年成立した水素社会推進法の目玉の一つで、供給開始からの15年間で3兆円規模を投じる。

流通コストが高く、企業努力だけでは早期の普及が難しいが、割高になる部分を国が補てんすることで、供給事業に乗り出しやすくする。

水素の開発や脱炭素戦略に詳しい三菱総研の圓井道也主席研究員は、商社が取り組むことについて「供給網の構築は資金力があり、上流から下流までまとめていける点で、商社の特徴を発揮しやすい領域だ」と話す。

供給ルート確保へ

値差支援では、水素の量に換算して最低でも年間1000トンを供給するといった複数の要件があり、供給ルートの確保に向けた動きも本格化している。

三菱商は出光興産とともにエクソンモービルが米国で進める水素・アンモニア製造プロジェクトに参画し、運搬や受け入れ拠点の運用を共同で検討すると10月に発表した。三菱商は愛媛県今治市の波方地区、出光は山口県周南市でそれぞれアンモニア供給網の整備に向けたプロジェクトに参加しており、各エリアへの供給を見込む。

三井物産はアラブ首長国連邦(UAE)ルワイスでアンモニア製造プラントの建設に着手している。従来より排出量が少ないアンモニアを27年から年間100万トン製造するほか、30年までに製造工程で排出されるCO2を回収・貯留した「ブルーアンモニア」の製造開始も目指す。伊藤忠が参画する北九州市のプロジェクトは輸入に加え、廃プラスチック由来の水素も製造・供給するなどの特徴がある。

普及に向けて前進するものの、水素は大量輸送が難しいなどの技術的な課題がある。一方で、アンモニアはこれまでも肥料などの目的で流通し、運搬や貯蔵の技術が確立されている。

商社業界を担当する大和証券の永野雅幸シニアアナリストは「製造や輸送のキャパシティーを増やす必要はあるが、当面はアンモニアの拡大がコスト面や運搬面から現実的だ」との見方を示した。

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