米国のトランプ次期大統領が海外各国に対し導入を示唆する関税の脅威がアジアの株式市場に暗い影を落とす中、日本は例外になるかもしれないとの見方が市場関係者の間で浮上している。

トランプ次期米大統領

米モルガン・スタンレーの分析によると、日本企業が北米で稼ぐ収益の半分以上は米国で生産された商品やサービスから得るものだ。この比率は台湾や中国などアジア各国・地域の中で最も高く、トランプ氏が外国製品に対し高い関税をかけた場合でも、日本の負担が軽減される可能性を示唆する。

豪ペッパーストーングループのストラテジスト、ディリン・ウー氏はトランプ氏が米国内の投資に再び焦点を当てたことで、「日本企業が米国への投資を拡大する可能性が高まり、特に自動車や半導体、ハイテク分野で現地での雇用創出につながるだろう」と述べた。

年明けに始動する米新政権の関税圧力から日本企業が逃れることができれば、日本株にとっては追い風になるかもしれない。11月初めにバンク・オブ・アメリカ(BofA)が公表した最新のファンドマネジャー調査によると、グローバル投資家は既にアジアで最も良好な企業収益が見込まれる日本株を有望視している。

日本取引所グループのデータによると、米大統領選挙が行われた11月第1週に海外投資家は現物と先物を合わせて日本株を差し引き7645億円買い越した。買越額は7月第2週以来、約4カ月ぶりの高水準。21日に公表された11月第2週も2218億円の買い越しだった。

トランプ氏は中国からの輸入品に60%、その他の国からの輸入品に10-20%の関税を課すとの考えを示している。菓子大手の森永製菓は米国で2カ所目の工場を建設し、ソフトキャンディー「HI-CHEW(ハイチュウ)」の製造ラインを新設するほか、医療機器の日本光電は米医療機器メーカーの親会社の株式を取得するなど日本企業の間で現地での生産体制を強化する動きが出始めた。

ペッパーストーンのウー氏は、トランプ氏の1期目にはトヨタ自動車やソニーグループ、パナソニックホールディングス、東京エレクトロンなど日本を代表する大手企業が税制優遇を追い風に生産と販売を大幅に伸ばしたと指摘する。

米国第一主義とシンゾー不在

とはいえ、グローバル投資家の間ではトランプ氏の米国第一主義が世界経済を弱体化させるリスクに警戒感も強い。スイスのUBSグループのエコノミストは、2026年の世界経済の成長率が2.9%から2%に減速する可能性があるとみる。

フィリップ証券の笹木和弘リサーチ部長は、トランプ政権の1期目は「世界経済全体の減速懸念が強まった時期」だと分析。国内総生産(GDP)に占める日本の輸出比率は欧州よりも若干低いが、輸出関連銘柄の日経平均株価に与える感応度は非常に高いと述べた。

また、前回のトランプ政権時は日本の安倍晋三元首相が良好な首脳関係を築いたことで、日米両国が対立するような大きな問題は起きなかったが、安倍氏は既に故人となった上、石破茂首相とトランプ氏がどれだけの信頼関係を構築できるかどうかは不透明な部分がある。

トランプ氏が前回大統領の座にあった17年1月から21年1月の日本株のパフォーマンスは米国や韓国株には及ばなかったが、ドイツや中国を上回った。今回の大統領選でトランプ氏の勝利がほぼ決まった6日以降の動きを見ると、MSCIジャパン指数は21日時点で1%超下落しているのに対し、MSCIチャイナは約4%、MSCI韓国は約3%下げている。

キャピタル・ドット・コムのシニア市場アナリスト、カイル・ロッダ氏は「日本株はトランプ氏2期目の恩恵を受ける可能性がある」と指摘。最大の理由は「各国と米国の二国間関係が経済力や市場のパフォーマンスを決めるゼロサムの世界に戻りつつあるためだ」と語った。

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