(ブルームバーグ):東京証券取引所に10月に新規上場した東京地下鉄(東京メトロ)は、不動産運営などの非鉄道分野を事業の柱の一つとし、企業の合併・買収(M&A)や資本提携を視野に成長を加速させたい考えだ。
山村明義社長は20日のインタビューで、鉄道事業を軸にしながらも不動産や流通などの非鉄道分野は「強化していかなければいけない」と言及。経営資源をこの分野での「M&Aや出資に振り向けていきたい」と述べた。上場したことで企業としての信頼が高まり、多くの企業とビジネスについての対話が深まっていることも、戦略を後押ししているという。

同社は新型コロナウイルス禍で乗客が激減した経験から、鉄道事業への依存度を減らすべく、事業の多角化を進めている。今年度までの中期経営計画では、非鉄道事業として不動産、流通、駅などの広告・情報通信事業を列挙。今年4月には私募リート(不動産投資信託)の運用開始を目指し新会社を設立した。
山村社長は今後、年間1000億円程度の設備投資額のうち、約3割を成長投資に振り向け、その大部分は新規の不動産物件の取得に充てたいと説明。組成したリートに物件を売却し、売却益と自己資金で大型物件を購入するというモデルで不動産事業を拡大する方針だという。具体的には、駅ビルやオフィスの開発に意欲を示した。
非鉄道分野の収益目標は検討中だが「かなり増やしたい」という。既存中計では、3年間で3300億円の設備投資計画のうち、25%の820億円を成長投資に配分している。
英国で鉄道運営を受注
営業利益の8割超を占める鉄道事業で、東京メトロは20日、住友商事、英鉄道運営事業者のゴー・アヘッド・グループとの合弁でロンドン市交通局の地下鉄エリザベス線の新たな運営事業者に選ばれたと発表した。海外への技術コンサルティングや教育などを行ってきたが、海外での鉄道路線の運営事業に参画するのは初めて。

山村社長は、東京メトロの「豊富な地下鉄の建設と運営のノウハウや経験を発揮できるチャンスを検討してきた」とし、今回の選定に「手ごたえを感じている。収益、利益ともに貢献していく案件だ」と述べた。
松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは、都心の足を担う東京メトロの鉄道事業は同業他社と比べ「立地に恵まれており、収益性はとても高い」と指摘。
不動産で鉄道事業ほどの収益性を得ることは難しいとしながらも「何もしないと成長の伸びしろは限られる上、コロナ禍のような事態が再び起こらないとも言えない」と述べ、「徐々に多角化を目指すのが理想的だ」とした。
通信大手ソフトバンク以来の大型上場と注目を浴びた東京メトロは10月23日、東証プライム市場に上場。公開価格1200円と比べて36%高となる1630円で初値を付けた。その後も株価は堅調に推移し、21日終値は1700円だった。山村社長は「毎日、株価を見ながら励みにしている」と明かした。

(第8、9段落にアナリストコメントを追加しました)
--取材協力:長谷部結衣、Katria Alampay.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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