外国人の受け入れを望まない国に入国しようとするのが、今ほど困難で危険だったことはない。

2023年には国境警備に前例のないほどの予算が費やされ、新たな生活を求めて移住先に向かう人々の間で過去最多の死者が出た。メキシコ国境経由で米国に渡ろうとする中国人の急増などが大きなニュースになった。

しかし、資金面で余裕のある人は、他国の居住権を買うことも可能だ。幾つかの国は「ゴールデンビザ(査証)」を発給し、中には「ゴールデンパスポート(旅券)」で外国人に完全な市民権を与える国さえある。

これらを入手するために支払う額はさまざまで、富裕層のみに発給されるビザもあれば、より手頃な価格で手にすることができる国もある。

ゴールデンビザは、米国や西欧への移住を希望する中国やロシア、中東の市民が多く購入しているが、他の国々からも注目が集まっている。

24年の米大統領選に勝利したとドナルド・トランプ氏が宣言すると、米国で「国外脱出」「ゴールデンビザ」「ポルトガルへの移住」への関心が大きく膨らんだことがグーグルのオンライン検索で示された。

ゴールデンビザの取得は難しくなっている。法執行機関はこれらのプログラムが犯罪行為を助長し、腐敗をまん延させていると懸念している。

批判派は、富裕層に他の人々には与えられない機会を与えることで不平等が固定化されると主張。市民権や居住権は基本的権利であり、お金を積めば買えるようなものではないとの考えだ。

ゴールデンビザとは何か

「投資による居住プログラム」として知られることが多いゴールデンビザは、個人が特定の国で一時的または永続的な居住権を取得し、そこで生活し働くことを可能にするものだ。投資には住宅購入や会社設立、寄付などが含まれる。

取得者がその国に常にいる必要さえないケースもあり、短期滞在を希望するものの、永住するつもりはない人々にとって、このビザは有用な選択肢となる。

人気のゴールデンビザは新しい制度なのか

政府が資金を集め、外国からの投資を促す有効な手段として、こうしたプログラムは数十年も前から実施されている。

米国には外国人投資家がグリーンカード(永住権)を取得するための道を開く「EB-5」ビザプログラムがある。欧州では債務危機時にゴールデンビザが人気を博した。一部の国が外国資本を誘致し、財政赤字を埋めようとして居住権を売り出した。

ポルトガルやアイルランド、ギリシャ、ハンガリーなどは欧州連合(EU)および国際通貨基金(IMF)から救済措置を受けた後、ゴールデンビザを導入した。

今ではこうした「お金を払えばビザがもらえる」といった似たようなプログラムが欧州を含む世界各国で採用されている。

反対派の声が一定の水準に達すると、住宅値上がりや住宅所有者の不在、汚職疑惑といったデメリットがメリットを上回ると結論付けられ、政府がプログラムを打ち切ることもある。

ゴールデンビザの不確かな未来(ブルームバーグ・オリジナルズのドキュメンタリー)

ゴールデンビザは何をもたらすのか

ポルトガルは12年、少なくとも50万ユーロ(約8200万円)を不動産購入もしくはファンドへの投資に充てるか、起業して雇用を創出する意欲のある非EU国籍者にゴールデンビザの発行を開始した。その後、不動産投資の要件は35万ユーロに引き下げられた。

13年には、ギリシャとスペイン、ハンガリーが独自のゴールデンビザプログラムを開始し、不動産投資と引き換えに居住許可証を発行した。

これらのプログラムでは、多くのEU加盟国を自由に旅行できる権利も与えられた。ほとんどのプログラムで申請者は数年以内にEUの市民権を申請することができる。

汚職疑惑が浮上したことを受け、17年にゴールデンビザプログラムを中止したハンガリーは、新たなプログラムを今年再開する方針だ。

ハンガリーの不動産ファンドに少なくとも25万ユーロ、または現地不動産に50万ユーロを投資した人に対して、更新可能な10年間の居住権の申請を認めるとしている。

ゴールデンビザ反対派は何を問題視しているのか

EUの行政執行機関である欧州委員会は、長年にわたり、ゴールデンビザのプログラムがマネーロンダリング(資金洗浄)や治安上のリスクをEUにもたらす恐れがあると警告している。ロシアがウクライナで戦争を始めると、こうした懸念はさらに強まった。

欧州各国は住宅不足への対応を迫られる圧力の高まりを受け、たとえ市場全体における不動産取引のごく一部にしかならないとしても、ゴールデンビザを段階的に終了し始めている。

英国とアイルランド、オランダ、ギリシャ、マルタは、ゴールデンビザまたは同等の政策を取りやめるかルールを厳格化した。

スペインも4月、国民が利用できる手頃な価格の住宅を増やすため、ゴールデンビザプログラムを打ち切ると発表。欧州でも特に人気のポルトガルのプログラムでは、不動産投資を通じたゴールデンビザの申請ができなくなった。

ポルトガルのゴールデンビザプログラムで集められた資金の約9割は不動産に投じられた。不動産市場に数十億ユーロを呼び込んだこのプログラムは、特に中国人投資家に人気で、リスボンの空港では高級不動産物件の看板広告が中国語で書かれていたほどだ。

最近では、ポルトガルのゴールデンビザは米国人投資家の間でも人気が高まっている。

欧州以外では、オーストラリアが500万豪ドル(約5億円)を超える投資を行う個人を対象とした申請手続きを1月に一時停止した。より多くの熟練した働き手を呼び込むことを目的とした広範な移民政策見直しの一環だ。

ゴールデンビザ取得、今はどれだけ難しいのか

ポルトガルでは、不動産を購入してゴールデンビザを取得することができなくなったが、それでも幾つかの選択肢は残されている。

少なくとも50万ユーロ相当の適格ファンドへの投資や科学的研究活動、5人の雇用を創出するか10人の雇用を維持する企業の株式資本への投資などだ。

9月1日から、ギリシャは不動産購入でゴールデンビザを取得するために支払わなければならない最低額を40万ユーロに引き上げた(政府は一方で、少なくとも25万ユーロを地元のスタートアップに投じる投資家を対象にゴールデンビザのプログラムを拡大する計画だ)。

カリブ海地域でも投資による市民権取得の費用は上昇している。こうしたプログラムが国家収入の半分以上を占める小国も幾つかある。

カリブ海諸国のパスポートの中には、2国間協定により英国やEU加盟国へのビザなし渡航が可能なものもあり、欧州当局はゴールデンビザが犯罪者入国のきっかけとなる可能性を危惧。そのため、欧州各国はカリブ海諸国に制限を課すよう圧力をかけている。

カリブ海諸国の中でゴールデンビザプログラムを実施しているドミニカとグレナダ、セントクリストファー・ネビス、アンティグア・バーブーダ、セントルシアの5カ国は今年、自国のパスポート取得に少なくとも20万米ドル(約3100万円)を課すことで合意した。

また、EUと米国の懸念に応える形で審査を強化し、管理を厳格化した。

原題:What’s a Golden Visa and Where Can You Still Get One?: QuickTake(抜粋)

--取材協力:Alice Kantor、Paul Tugwell、Jim Wyss、Sarah Rappaport.

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