(ブルームバーグ):「私たちは順調に進んでいる」。日産自動車の内田誠社長がこう述べたのは、期初の見通しを示した5月のことだった。それからわずか半年、業績の急速な悪化で9000人の削減を含むリストラに追い込まれ、アクティビスト投資家も乗り出してきた。
今年3月販売台数の大幅増と収益性向上の両方を追う目標などを示したが、思うようにいかず、内田氏は7日の決算会見で見直すと明らかにした。日産が抱える課題の多くは解決されないままで、判断ミスも相次いでおり、経営責任を問う声も上がっている。
11日に公表された日産の半期報告書ではアクティビスト投資家であるエフィッシモ・キャピタル・マネージメントと関係が深いファンドが大株主に浮上したことが判明。12日の株価は一時前日比21%高と急騰、13日の午前の取引でも一時4.4%高となった。モノ言う株主の参画により、経営陣へのプレッシャーも一層強くなる可能性がある。
日産が抱える問題の中でも深刻なのは開発スピードの遅さだ。過去3年ほどの間にトヨタ自動車やホンダが米国における主力車種のほとんどをフルモデルチェンジしたのに対し、日産車で米国で最も売れているスポーツ用多目的車(SUV)「ローグ」(日本名・エクストレイル)や、人気車種の「セントラ」の全面刷新は4年前かそれ以上までさかのぼる。
日系3社の米国主力車種のフルモデルチェンジ実績

車種の高齢化問題は、今に始まったことではない。20年の時点で日産も問題視しており、商品ライフサイクルを短縮して車齢を4年以下にすることを掲げていた。
内田氏は7日の決算会見で、顧客のニーズに応える商品を「タイムリーに提供できていないことも大きな課題」と話し、今後は開発期間をさらに短縮して30カ月とすることを目指すとした。ただ、適切なタイミングで商品投入ができていない原因について言及はなかった。
SBI証券の遠藤功治シニアアナリストは、日産が過去2年の間に米国や日本でほとんど新車を出せていないのは「明らかにおかしい」とし、新型車の市場投入に関する経営判断がうまくいっていないとの見方を示した。
大失敗
世界の自動車メーカーを悩ませている電動化への対応でも誤算が重なった。
米国市場では電気自動車が減速する一方、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車の需要が高まっており、内田氏は「現在こうしたラインアップを持っていない当社は苦戦を強いられている」と述べた。アナリストも電動車投入の遅れに対して厳しく批判している。
日産は同社独自のHV技術「e-POWER(イーパワー)」搭載車を「米国でもっと早く発売すべきだった」と英調査会社ペラム・スミザーズ・アソシエイツのアナリスト、ジュリー・ブート氏は指摘する。同氏は日産がイーパワー搭載車を22年に欧州に導入した際に「米国で同時に行われないと聞いて驚いた。これは経営上の大失敗だった」との見方を示した。
日産は需要増を受け、従来は27年3月期中としていた米国へのイーパワー投入について時期を数カ月前倒しすべく取り組んでいるものの、来期中の導入は「正直できない」としており、当面は旧来のガソリン車頼みが続くことになる。
ブート氏は、日産が目先で投入を予定するのはSUV「ムラーノ」など販売台数の少ないモデルであることを踏まえると「日産が今後1年半の間に米国での販売を改善できる可能性は低い」と言及。「この2年間で多くの過ちが犯されており、解決には別の経営陣が必要かもしれない」と述べた。
カルロス・ゴーン元会長はかつて、資産売却やサプライヤーとの取引見直しなどを通じて日産の「リバイバル」を図った。日産は再びコスト削減による立て直し策を打ち出すが、詳細は明らかになっておらず、計画の有効性を評価するのは難しい。
90年代にはコストカットは容易な選択肢だったが、今回はそれでは難しいかもしれないと、アシンメトリー・アドバイザーズの日本株ストラテジストであるアミール・アンヴァルザデ氏は指摘する。「本当に全てが終わってしまうかもしれない」と同氏は続けた。
(表と株価を追加し更新します)
--取材協力:田村康剛.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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