ドル円が再び上昇している。円安の再燃は日本のインフレ率や日銀の金融政策のパスにも大きく影響を与える可能性があるため、注意が必要である。もっとも、筆者は複数の観点から、ドル円が再び160円を超えるような動きにはならないと予想している。当レポートでは、そのように考える背景を整理する。
ドル円の上昇は日米金利差に沿った動きであり、米経済・金融政策を冷静にみるべき
まず、足元のドル円の上昇は「円安」というよりは「ドル高」と言える。
米国のリセッション懸念が大きく後退する中、米大統領選を前にトランプ氏やハリス氏の財政拡張の不安が高まりやすく、米金利が上昇してきた。足元のドル円の動きはほぼ日米金利差に沿った動きであり、24年前半にあったような金利差では説明できない「円売り」と言える状況ではない(図表1、2)。むろん、米金利が無秩序に上昇する場合はドル円もそれに合わせて上昇が続く可能性があるものの、すでに米金利の水準は高水準であり、上昇余地は限定的だろう。例えば、株式市場が長期金利の上昇を嫌気して下落し、リスクオフ局面が訪れるなど、米金利の上昇には限界がある。新大統領が米金利急騰や米株暴落を無視して財政拡張を進める可能性は低いと冷静に考えれば、米金利の上昇余地は限られるという話になる。


また、筆者は世界的にコモディティ価格が安定的に推移していることに注目している。米国経済や政治だけに注目するとインフレ再燃の材料も多いが、グローバルにはディスインフレ圧力が強くなっている。米経済だけをみていると、インフレの動きを予想できない状況である。