「103万円の壁」以外の政策が停滞している可能性が高い
世の中が「103万円の壁」の議論に集中する中、筆者は他の2つの報道に注目した。
1つ目は、赤沢経済財政相が11月5日に行われた閣議後の会見で、10月末で打ち切られた電力・ガス料金補助金を再開する場合、実施には事務的に1ヵ月以上は必要であると述べたというもの。仮に12月以降に再開する場合、事後的に11月分を補てん・支援する可能性については否定したという。電気代・ガス代の補助策は補正予算(経済対策)に盛り込まれる可能性が高いとみられていた。その間は予備費の活用によって継続される可能性があると、筆者はみていたが、現状では議論が進んでいない模様である。前述したように、「103万円の壁」の議論の中で所得減税といった議論が出てくる可能性はあるが、「103万円の壁」に議論が集中し過ぎて他の政策の議論が進んでいない印象が強い。石破氏は衆院選前にこれから策定される補正予算(経済対策)は13兆円規模となった昨年の経済対策を超える規模にする意向を示したが、この数字に向けて積み上げが行われていないとすれば、少なくとも即効性という意味では経済対策が期待外れに終わってしまう可能性は十分にあるだろう。
半導体支援に「つなぎ国債」を使うという流れは、財源の限界が意識される
2つ目の注目は、政府が半導体支援について「つなぎ国債」を発行するというもの。半導体支援についてはこれまでも経済対策に盛り込まれてきたが、新たな枠組みをつくり、財政運営上、一般会計とは分けるという動きがあるという。一見すると半導体支援に前向きな報道だが、「つなぎ国債」は特定の財源とセットであり、実際に「つなぎ国債」の償還財源にはNTT株やJT株など国が保有する株式からの配当金をあてると報じられている。これまで一般会計の中で積み上げられ、建設国債や赤字国債を財源としてきたが、財源が限定されることで歳出にも制限がかかることになるだろう。経済安全保障にかかわる半導体支援についても限度があると財務省からキャップが付けられたと考えられ、経済対策が拡大しにくくなる要因と考えられる。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)