半導体メモリー大手、キオクシアホールディングス(HD)は8日、12月から2025年6月の間に新規株式公開(IPO)を目指すことを明らかにした。有価証券届出書を公表した。

届出書によると、発行株数は未定。ジョイント・グローバル・コーディネーターは、米モルガン・スタンレー、野村証券、BofA証券が務める。国内に加えて欧州や米国など海外でも売り出す予定。

東京証券取引所の承認を得る前に、有価証券届出書を提出し、投資家と対話できる「承認前届出書提出方式」を採用した。23年の同方式導入後、同社が初めての実施例で、上場手続きにかかる期間の短縮につながる。

キオクシアHDはNAND型フラッシュメモリーの専業メーカーで、データセンターやパソコン、スマートフォン向けメモリーを生産する。人工知能(AI)ブームを受けて需要が拡大しており、サムスン電子やSKハイニックスの韓国勢に追いつくためには継続的な設備投資が不可欠。同社は北上工場(岩手県北上市)の新棟稼働に向けて準備を進めており、IPOで資金調達手段を多様化させる考えだ。

キオクシアHDは20年にも東証から上場承認を得ていたが、メモリーの市況悪化や新型コロナウイルス感染再拡大への懸念などがあり、延期していた。関係者によると、当初は10月上場を目指していたが、半導体株が調整局面にあったことから、タイミングを見極めていた。

ラストチャンス

英調査会社オムディアの南川明シニアコンサルティングディレクターはIPOのタイミングについて、メモリー価格が上昇し、需給バランスもタイトに向かっている中での「ベストタイミング」だが、同時に同社復活の「ラストチャンスかもしれない」と話す。

キオクシアHDが同日発表した7-9月期(第2四半期)の営業利益は前年同期比32%増の1660億円だった。需給バランス改善による販売単価上昇など、フラッシュメモリー出荷量が増加したという。

オムディアのデータによると、生産規模や積層化技術で先行する韓国勢がNAND型フラッシュメモリー市場で5割超のシェアをおさえる一方、キオクシアは18%にとどまる。南川氏は、同社はここ4-5年、資金難から開発が遅れ韓国サムスン電子との技術差が拡大していると指摘。近年では生成人工知能(AI)ブームの恩恵を受けるSKハイニックスの後塵(こうじん)も拝する。

韓国勢はNANDに加え、AI半導体ブームにより需要が急増する広帯域メモリー(HBM)も生産するが、キオクシアHDはNAND専業メーカーであることから、韓国勢よりも半導体市況の影響を受けやすいリスクも抱える。

巻き返しに向けて鍵になるのがデータセンター向けだ。キオクシアHDはスマートフォン向けが売り上げの過半を占めており、足元で需要が拡大するデータセンター向けは手薄。南川氏はキオクシアHDが開発しているデイジーチェーン技術を例に挙げ、「データセンターに入れるような新しい技術で一気にシェアを取っていかないといけない」と指摘する。

 

キオクシアHDの今後を巡っては、膠着(こうちゃく)しているWDとの経営統合に向けた交渉も焦点となる。昨年10月にはキオクシアHDに間接出資するSKハイニックスの幹部が統合に反対すると表明していた。

南川氏は、米ウエスタンデジタルは業績が低迷し、技術力も際立っているわけでもないため、「一緒になるメリットはほとんどない」と強調。

NAND専業メーカー同士の統合では「一本足であることには変わりがない」ため、市況悪化による業績悪化を回避するためにもDRAMメーカーと提携するなど「長期的には両方持つ必要は絶対ある」と述べた。

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