(ブルームバーグ):気候変動を抑える国際的な枠組みを否定するトランプ前大統領のホワイトハウス返り咲きは、地球温暖化対策にとって決定的な脅威となる。有意義な行動を起こせる時間が限られているためだ。
国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)が11日に始まり、200近い国々の代表がアゼルバイジャンの首都バクーに集まる。その直前、共和党のトランプ氏が大統領選を制した。同氏は、画期的な2015年のパリ協定から再び離脱すると示唆している。
世界一の経済大国で二酸化炭素(CO2)排出量で世界2位の米国は、第1次トランプ政権下でパリ協定を脱退。バイデン政権になって復帰していた。
トランプ氏が再び離脱を決めれば、より長期的な影響が懸念される。ここ10年間で形成されてきた気候変動対策への信頼はすでに揺らいでいるが、そうした状況をさらに悪化させ得るのがトランプ氏だ。
地球温暖化につながる汚染物質の削減とゼロエミッション発電の展開に向けた世界的な取り組みを活性化させてきたデリケートな外交努力を、同氏の政権復帰が不安定化させるのはほぼ確実。
米国の関与がなければ、地球の気温上昇抑制に向け極めて重要な10年間において、排出削減の取り組みが停滞しかねない。
化石燃料不拡散条約イニシアチブの活動家ハージート・シン氏はトランプ氏の勝利について、「世界で最も脆弱(ぜいじゃく)なコミュニティーにとって、気候変動リスクが著しく高まる」ことを意味すると指摘。
「気候変動に関する公約を後退させるトランプ氏の行動は、先進国の無関心と不作為ですでに動揺しているグローバルシステムの信頼を崩壊させる恐れがある」と述べた。
第2次トランプ政権発足まで2カ月あるものの、トランプ氏の当選により、米国がCOP29に送り込む代表団は、信頼性が低下し、影響力も弱まり「レームダック」状態となった。
気候変動の最前線にある途上国向けに先進国がどれだけの公的資金を拠出できるかというCOP29の主要議題に関する交渉は深刻な難航が予想される。
また、来年2月までの新たなCO2削減目標の設定においても、各国の意欲が抑制される公算が大きく、COP29での決裂のみならず、影響ははるかに広範囲に及ぶ可能性がある。
パリ協定は産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える目標を掲げるが、米国の再脱退は、目標達成に向けわずかに残された希望を打ち砕く危険性がある。
気候変動のシンクタンクE3Gのオルデン・メイヤー上級顧問は「2度未満、ましてや1.5度未満に抑えるチャンスを得るためには、世界的な意欲を飛躍的に高める必要がある」と訴え、米国の政策転換は「現実世界に影響を及ぼす」と警告した。
パワーシフト
アジア・ソサエティー政策研究所のディレクター、リ・シュオ氏は、アゼルバイジャンでの気候変動ファイナンスに関する交渉は「気候変動抑制に向けた体制の強靱(きょうじん)さを試す最初の試金石となるだろう」と語った。
トランプ氏の大統領就任により、パワーバランスが他の国々や経済圏へシフトし、合意をまとめる上で欧州連合(EU)の役割が高まる可能性もある。
EUに対し中国と合意するよう圧力が強まることも想定される。自国は途上国だと主張している中国だが、気候変動対策の年間ファイナンス目標を掲げる先進国のグループに参加するよう圧力をかけられている。
リ氏は「もしあなたがEUなら」、トランプ氏の勝利に直面し、「従来の支援国が1国減ったことを理解するだろう。中国を仲間に入れることに、より関心を持つかもしれない」と話した。
それでも、政治問題に対処するためEUの多くのリーダーがCOP29を欠席する。
ドイツのショルツ首相は来年3月の総選挙実施を目指すとし、バクー訪問を取りやめた。事情に詳しい関係者が明らかにした。EUの行政執行機関、欧州委員会のフォンデアライエン委員長とフランスのマクロン大統領も不参加だ。
原題:Trump’s Election Threatens to Strangle World Climate Diplomacy(抜粋)
--取材協力:John Ainger.
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