ドナルド・トランプ氏が選挙人と総得票数で過半数を確保して米大統領選に完勝し、共和党が上院を制したことに、英国のエスタブリッシュメント(支配層)は動揺している。

英労働党党首のスターマー首相は直ちにトランプ氏に祝辞の電話をかけたが、民主党候補だったハリス副大統領の勝利を望んでいたことは間違いない。

これは英労働党と米民主党が姉妹政党であり、考え方や人材を共有しているからだけではない。トランプ氏が掲げる不法移民の国外追放や男性優位の姿勢などは、労働党にとって嫌悪の象徴だからだ。ラミー外相に至っては、野党議員時代にトランプ氏を「KKK」や「ナチス」とののしり、もしトランプ氏が英国に来たら「街頭に出て抗議する」とも宣言していた。

普通の大統領であれば、こうした出来事は政治家としてやってきたのだから、と水に流すかもしれない。しかしトランプ氏は忘れて許すタイプではない。敏感で怒りっぽい上、相手を動揺させるため自分への非礼を巧みに利用する能力も持っている。

英政界は総じてトランプ氏の勝利に困惑している。ただし、わずかながらトランプ氏と親しい人もいる。ジョンソン、トラス両元首相やブレーバーマン元内相、トランプ氏の勝利を同氏の邸宅「マールアラーゴ」で祝った英右派政党「リフォームUK」のナイジェル・ファラージ氏などだ。こうした少数派をスターマー首相が活用するとは思われず、現労働党政権の役には立たない。トランプ氏が来年1月に大統領に就任すると、近年には類を見ないほど米政府内に英政府の味方はいなくなる。

英国はこれまで米国と特別な関係を築くタイミングに恵まれてきた。サッチャー時代の保守党は1980年代にレーガン政権下の共和党と、中道派のブレア元首相は90年代にクリントン政権と緊密な関係を築いた。2016年には欧州連合(EU)離脱方針が英国で決まった数カ月後にトランプ氏が大統領選で勝利し、「英国のトランプ」と称されたジョンソン氏とトランプ氏は協調して、EUを困らせた。

今回のタイミングは、英国にとってこれ以上ないほど最悪だ。トランプ氏と、人権派弁護士から検察官に転身したスターマー氏は相性が合わず、EU離脱で交渉が始まった米国との自由貿易協定(FTA)に労働党は関心を持っていない。個人と法人の減税、規制緩和など拡張的な経済政策を掲げて景気過熱が見込まれるトランプ氏の米国が、増税と富裕層への締め付け強化を計画する社会主義的な労働党政権の英国から、多くの人材と資本を奪い取るのはほぼ間違いないだろう。

英国は今、ビクトリア時代の「光栄ある孤立」以降、かつてないほど孤立している。EU離脱で欧州での地位は低下し、「MAGA(米国を再び偉大に)」を目指す米国との関係も先行きは暗い。

(エイドリアン・ウールドリッジはブルームバーグ・オピニオンのグローバル・ビジネス・コラムニストです。コラムの内容は必ずしも編集部あるいはブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Trump Win Leaves Britain Awfully Isolated: Adrian Wooldridge(抜粋)

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