(ブルームバーグ):エコノミストらの警告は数カ月前から明確だった。「備えよ」だ。トランプ氏が選挙公約通り一連の大幅関税を新たに課せば、同氏の返り咲きによりグローバル経済は歴史的な混乱期を迎えることになるとエコノミストらは警告している。
それでも企業の最高経営責任者(CEO)やバンカー、投資家、さらにはトランプ氏の顧問までもが、輸入品に対する一律10-20%の追加関税やさらに高水準の対中追加関税がもたらす悪影響、あるいは追加関税に伴う米国のインフレ再燃の可能性を巡る警告をおおむね受け流してきたのには理由がある。
トランプ氏の過去の実際の言動から、同氏がこれまでの脅しを全て実行に移す可能性は低いとみている人は多い。さらにトランプ氏が何を実行しようとも今度こそ適応できるとの自信も広がっている。
エコノミストらがトランプ氏の計画をひどい判断ミスだと非難しても、同氏は選挙期間中に保護主義的な脅しを強めた。なぜなら、それが有権者に人気のある政策の重要な部分を占めたからだ。勝利後、トランプ氏はそれらの公約を実現する権利を得たと主張した。
トランプ氏は支持者らに「米国はわれわれに前例のない強力な権限を与えた」とし、「成功はわれわれを団結させるだろう。そして、われわれはまず米国を第一に考えることから始めるつもりだ」と述べた。

トランプ氏の1期目で米通商代表部(USTR)代表を務めたロバート・ライトハイザー氏は、世界は米国の新たな関税に備えるべきで、貿易黒字国はトランプ氏の不満に対応する必要があると警告した。
新政権で重要なポストに就くとみられるライトハイザー氏は先週、 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)への寄稿で「一貫して巨額の黒字を計上している国は、グローバル経済における保護主義国だ」と指摘。「われわれは、そのような国が引き起こした損害に単に反応しているだけだ」と主張した。
しかし、こうした脅しを巡っては、トランプ氏は虚勢を張っているのか、また、たとえそうでなかったとしても世界はどう反応するのか、などの大きな疑問がつきまとう。トランプ氏の1期目は、経済政策の立案における混乱と、貿易を巡る側近同士の激しい対立が顕著だった。
トランプ氏はまた、アップルのティム・クック氏などCEOらによる関税に関するロビー活動に耳を傾けたり、アイオワ産大豆の追加購入を確約して貿易上の脅威を和らげることを狙った欧州連合(EU)首脳のお世辞を受け入れたりするなど、ディール(取引)重視の大統領としての評判も築いた。
世界も変化した。企業は可能な限り関税を回避したり、サプライチェーン(供給網)を再編したりして関税への適応に懸命に取り組んだ。これらは今や中核的なスキルで、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による混乱のほか、コスト効率の追求のみならず地政学的な要因が貿易や投資を推進する時代を迎える中で磨かれてきたものだ。

ドイツの高級車メーカーBMWやホンダなど自動車メーカーの幹部は6日の決算発表で、米国内にすでに大規模な製造拠点を持っているとして、トランプ氏による関税の嵐を乗り切る準備ができていると示唆した。
BMWのオリバー・ツィプセCEO兼会長はアナリストに対し、関税などへの対応はある程度行われるだろうが、「口先だけの問題かもしれない」として関税が課されるかどうかに関する臆測は避けたいと指摘。すでに自動車を製造している米国での販売が伸びているとした上で、「米国では今後を見据えたほぼ完璧な体制が整っている」とした。
米工具メーカー、スタンレー・ブラック・アンド・デッカーのドナルド・アランCEOは最近アナリストに対し、同社は春以来、トランプ氏の勝利と新たな関税に備えて計画を立ててきたと語った。計画では、新たな関税を相殺するために工作機械の価格を引き上げ、必要に応じて生産拠点を中国から他のアジア諸国やメキシコに移すことになっているという。

このような計画は、ビジネスの新たな現実が認識されていることを反映しているが、同時に国際競争に直面する政府にとって関税が有効な手段になり得ることを、政府当局者と企業幹部の双方が受け入れつつあることを示している。
トランプ政権1期目で米国の代表として主要7カ国(G7)や主要20カ国・地域(G20)の会合に参加し、現在は法律事務所スクワイヤ・パットン・ボグズでパートナーを務めるエベレット・アイゼンスタット氏は、トランプ氏による関税の脅し実行を阻止できるものはほとんどないと言及。「これは本当に大きな変化で、グローバルな貿易システムの再調整期に入る」と予想した。
トランプ氏は関税に関するエコノミストによる警告を繰り返し退けてきたが、その潜在的な影響の大きさは最終的にはトランプ氏とその顧問らをちゅうちょさせるかもしれない。
ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のエコノミスト、マエバ・カズン氏およびエネオノーラ・マブロエイディ氏の試算によると、輸入品への関税率を対中で60%、その他の国々は一律20%に引き上げた場合、その衝撃は大恐慌を深刻化させた貿易戦争の引き金になったと広く考えられている1930年のスムート・ホーリー関税法がもたらしたものよりも大きいという。
米国の平均関税率はこの法律によって14%から20%近くまで上昇した。トランプ氏の公約は平均関税率を現在の3%から20%余りへとはるかに大幅に上昇させることになる。

BEの米国担当チーフエコノミスト、アナ・ウォン氏は、潜在的な影響の大きさを考慮すると、最も可能性の高いシナリオは、トランプ氏が2国間関税を一部引き上げる一方で一律関税は課さないことだと指摘。今週のリサーチメモで「手続き上の要件と経済からの反応を考慮すると、貿易措置の範囲は限定される。米国の貿易相手国も同等の報復措置を取ると想定している」とした。
原題:More Trump Tariffs Are Coming But CEOs Insist They Are Prepared(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
©2024 Bloomberg L.P.