日本銀行の安達誠司審議委員は16日、今後の金融政策運営について、段階的な利上げを極めて緩慢なペースで行う必要があるとの見解を示した。香川県金融経済懇談会で講演した。

安達委員は、政策正常化に際しては「段階的な利上げというプロセスを経ることが適当だ」と強調。緩和的な金融環境を維持しながら「極めて緩慢なペースで政策金利を引き上げていく」ことの重要性を指摘した。目標達成後の急ピッチの利上げは「景気を悪化させ、再度、デフレーションを意識させるようなデフレレジームへの転換となってしまうリスクも無視できない」と語った。

安達誠司日銀審議委員

2%の物価目標の持続的・安定的な実現を目指して「金融政策の正常化に向けた取り組みを進めている」と説明。消費者物価の水準がデフレ期前のピークを超えていることなどを挙げ、「金融政策が正常化プロセスに入る条件は既に満たしている」と言明した。

日銀は経済・物価情勢が見通しに沿って推移すれば、利上げによって金融緩和の調整を進めていく考えを堅持しているが、世界経済の不透明感の強まりや円安修正などを受けて、植田和男総裁は政策判断に「時間的な余裕はある」と発言している。9人の政策委員の中でハト派に位置付けられる安達委員が利上げ路線の継続と緩やかな利上げペースの必要性を明確にしたことで、市場の利上げ観測は維持された形だ。

三井住友銀行の鈴木浩史チーフ・為替ストラテジストは、慎重ながらも利上げを進めるという執行部に近い発言で、リフレ派の安達氏が「こういった発言をしているというのは一定程度、理解しないといけない」と指摘。個人的には「1月の利上げを予想しているが、最速で12月もあり得ることは日銀のシナリオに入っているのだと思う」と語った。

安達委員は、物価情勢に関しては「ここまでの道のりはオントラックだ」とし、日銀が想定している2%の物価目標の実現に向けた経路を着実に歩んでいるとの見解を示した。一方で、米国の利下げサイクルが本格化した場合、円安是正の強まりで消費者物価に低下圧力がかかる可能性を指摘するとともに、「来年も十分な賃上げが持続するかについて、 やや慎重な見方をしている」と語った。

安達委員の発言を受けて、東京外国為替市場の円相場は午前に一時前日比0.2%高の1ドル=148円88銭まで円高に振れた。その後は149円台前半で推移している。

野村証券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストは、市場は「政策正常化プロセスに入る条件は既に満たしている」とのヘッドラインに反応したようだが、発言の詳細を見ると利上げに慎重な姿勢がうかがえると指摘。早ければ12月利上げの可能性はあるが、日銀の金融政策よりも、短期的には米国の経済指標や政治、中国の株式市場など海外要因にドル・円は左右されるだろうと語った。

米利下げ

午後の記者会見では、追加利上げを急ぎ過ぎて再びデフレに戻ることを最も避けるべきリスクとし、「慎重にやっていくべきだ」と改めて表明。その上で、金融政策判断に重要な2025年春闘の賃上げは「少なくとも今年並みが欲しい」との期待を示した。第1回回答集計が一つの大きなメルクマールになるとしつつ、来年1月の日銀支店長会議における各地の賃上げの感触も「判断材料になるかもしれない」と語った。

米国の利下げに伴う円安修正と金融政策への影響に関しては、消費者物価の上昇圧力が円安に伴う輸入物価や財価格から、サービス価格を中心とした基調的な物価に交代しつつあると指摘。米国の金融政策の影響を考慮する度合いは小さくなっているとし、日本の利上げは「アメリカの利下げが急ピッチだからできないという話では必ずしもない」と述べた。

他の発言

  • 物価目標達成時の政策金利水準と時期は見通せない
  • 現時点の実質政策金利、自然利子率を十分下回り緩和環境維持
  • 基調的な物価はまだ2%を下回っている
  • 非常に大きな為替の円安リスクはある程度は低下している
  • コミュニケーション、改善していく努力をしている最中

(記者会見での発言を追加して更新しました。更新前の記事は7段落目の安達委員の名前の表記を訂正済みです)

--取材協力:酒井大輔、日高正裕、グラス美亜、横山恵利香、氏兼敬子.

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