ハサミを入れる瞬間の葛藤――「モノ」ではなく「想い」を預かる覚悟

富山で仕事を始めて1、2年くらいの頃、70代くらいの女性が来店した。女性が持ってきたのは、10代で初めて就職した際、就職先でオーダーで作ってもらったというチェックのワンピース。

50年ほど前のもので、自ら分解し生地のような状態で保管していたという。虫食いもあり、「自分ではもうどうすることもできないが、これで身に着ける何かを作れないか」という依頼だった。

その時はまだ、オーダーでのリフォームを積極的に行っていなかった山口さん。しかし「これは絶対にやりたい!」と思い引き受け、虫食い部分を丁寧に取り除きながら、一枚のベストに仕立て直した。

山口亜耶さん
「そんなに昔のもので、大事にとってあるものがあるんだと思って感動して。そういうものに自分ができることがあるんだというのがすごく嬉しかった」

仕立てたベストの写真を見せながらエピソードを語る山口さん

後日、その女性から家族旅行の写真が届いた。
写真とともに「あなたの作ってくれたベストはあったかいし、当時のいい思い出が蘇って嬉しかった」と書かれた手紙が添えられていた。

職人として本当に嬉しく、今も深く記憶に残っているという。

リフォームは服という『モノ』だけでなく、持ち主の『想い』とも向き合う作業だ。心が揺さぶられたり、頭を悩ませる瞬間はあるのだろうか。

山口亜耶さん
「あえて心が揺さぶられないようにしています。もちろんお話を伺うときは深く受け止めるんですけど、切ったり別のものに変えたりしなきゃいけないので、それを考えすぎるとすごく緊張してしまうし。なので作業中は想いを持ち過ぎないようにしています」

壊したり、失敗してしまったら、二度と同じものは手に入らない。金額にかかわらず、どんな服であっても買い直して返すことができない。お客様にとって世界に一つの大切な服。だからこそ、作業はかなり慎重に行っている。

一番頭を悩ませるのは、細部を決めていく時だ。細かい縫い方など、あらゆる微調整が最後の仕上がりに影響する。

丁寧に作られたものは、最後に仕上がった時に言葉にできなくても「あ、なんか綺麗だな、素敵だな」と感じる。その最後の仕上がりを左右する「細部」をどう処理するかを決める瞬間は、いつもすごく悩むし、神経を使うという。

職人として、こだわりを尽くして仕上げた服。それを初めて目にした瞬間、客はどのような反応をするのだろうか。

そこでは、嬉しいという言葉のほかに、よく聞かれるのが「肩の荷が下りた」や「胸のつかえがとれた」という言葉だという。

(Q. 想いも一緒に受け継ぐ?)

山口亜耶さん
「いい意味でそこまで(想いは)強くなかったりもするのかなって。大きい意味で受け継ぐかもしれないけど、本当に受け継ぐのだったら、形は変えないんじゃないかな。みなさん自分なりに想いを消化して前へ進みたいのかなと」

ずっとどうしようかと悩んでいたものが、“誰かのもの”からようやく"自分のもの"になった安堵感。それこそがリフォームの本質かもしれない。