突然の「解体中止」

そして、その4か月後の去年10月29日。解体に着手するという連絡を受け、今野さん夫妻や県内外に散らばるきょうだいが、再び家に集いました。三女の生子さんは、東京から駆け付けました。それぞれが、思い出を胸に、静かにその日を迎えるはずでした。

ところが、当日集まったメディアに対し、解体を請け負った業者が「作業員の個人情報が含まれる」ことを理由に、解体現場の撮影をやめるように要請しました。個人情報とは、名前や住所など、特定の個人を識別できる情報のことで、今回の取材に、そうしたものは含まれません。配慮をする旨も伝えましたが、業者側は「重機に書かれた社名も個人情報だ」と主張し、話し合いは平行線をたどりました。

一方、今野さんたちは、自分たちがすごした家の姿を目に焼きつけていました。神棚や家具は片づけられ、柱だけになった家で、思い出を語り合います。

家を離れる際、次女の国分晶子さんは、家を振り返りながら静かに話しました。

「本当に見納めだ。かえって見せてもらえただけでも感謝だね」

あとは「家の最期」を見届けるだけ、そう思った矢先でした。

「きょうは躯体を噛む作業(解体)はしないそうです」

業者は突然、作業の中止を通告。

当初は「解体した後の仮置き場の都合がつかない」としていましたが、その後は「安全が確保できないため」などと説明。結局この日、解体を見届けるという今野家の願いは叶いませんでした。