■「奇跡の少年」なんて呼ばれたくなかった・・・
先輩記者に同行した取材先で当時高校3年生だった只野さんと顔を合わせた。
第一印象は礼儀正しく謙虚な青年。
震災直後からメディアに取り上げられていた只野さんのことは、入社2年目だった私も何度も報道で目にしたことがあった。想像していた通り。震災から立ち直って自分の道を歩んでいるように見えた。
「周りの目を気にして言いたいことも言えなかった」
本当の気持ちを知ったのは最近になってからだ。
「津波にのまれた瞬間を思い出してつらかったけど、亡くなった友達のためにも悲劇が二度と起きないよう話すんだ」
小学生ながら自分の意思で真実を証言してきたものの、本当は「奇跡の少年」なんて呼ばれたくなかったという。
「自分は何かを成し遂げた人でもないし、なるべくして注目される立場になったわけでもない」
学校では同級生から「取材は慣れているもんね」とちゃかされ傷ついた。目立ちたがり屋と心無いことをいう人もいた。都合の悪い証言はなかったことにされたこともあった。

「子どもは大人よりも周りの空気を読む力があるように思う。特に震災直後はそうせざるを得なかった。これは自分の実体験から」と話してくれたように、つらい気持ちは胸にしまい込んでいた。
心の整理がつかない中でも、使命感に動かされた。