■「奇跡の少年」としての苦悩

家族や友達の命日3月11日。
大川小で自分を待ち受ける報道陣に囲まれ「奇跡の少年」としてのコメントを求められる。

「気が付けば要求された質問に最適な答えを返すことにとらわれていた」と振り返る。

決して嘘は言っていない。

「二度と同じことが起きないように」「亡くなった友達の分も一生懸命生きる」「校舎を残して未来の命を守りたい」

本心を言っているのに、それが自分自身の思いなのか分からなくなっていたという。

何と答えるのが正解なのか。

そんなことばかりが頭をめぐり、亡くなったみんなに静かに思いを寄せることなどとてもできなかった。

「とてもつらかったです」

そう言われ、ドキッとした。我々報道記者も間違いなく只野さんを苦しめていた。分かってはいたつもりだが言葉が胸に刺さった。

「半端な気持ちで大川にかかわるのは自分にも亡くなった友達にも失礼」

只野さんは取材を断るようになり、数年大好きな大川とも距離を置いた。