全児童が無事だった釜石小「下校時避難訓練」に着目

釜石小学校が震災の翌年に発行した子どもたちの体験記

「釜石小学校の児童が、当時どんな避難行動をとったのか、興味を持ち、当時の子たちに会ってインタビューを重ねていきました」

中川さんが注目したのは、釜石市の中でも184人の児童全員が無事だった釜石小学校の事例だった。震災の翌年に釜石小学校が発行した児童たちの体験記『いきいき生きる』には、すみやかに避難できた理由として「学校の避難訓練をやっていたから」「防災教育をしていたから」といった言葉が随所にみられる。

「いきいき生きる」には、大切なことが詰まっていた

「当時の子どもたちと彼らが高校生になった時期にお会いしたんですけれども、口々に、当時印象に残っている訓練を下校中の避難訓練だって」

中川さんは、体験記を書いた釜石の子どもたちにインタビューを重ね、とっさの判断力と行動力がついた理由を明らかにしていった。

研究の中で浮かび上がってきたのは、釜石小学校で震災の3年前からサイレンを鳴らすなどして地域ぐるみで下校時間に繰り返し行われていた避難訓練の大切さだった。

「釜石の教訓を静岡へ」下校時避難訓練の実現

中川さんは、この下校時避難訓練を南海トラフ巨大地震で甚大な被害が予想されている静岡県でも取り入れられないかと考えた。

行政や学校と自ら交渉を重ね、2019年7月、大学院生として迎えた2年目の夏に中川さんの熱意は実を結んだ。学区内に津波浸水想定区域を持つ掛川市の千浜小学校が、下校時避難訓練の実施を受け入れてくれたのだ。

サイレンを鳴らして行う釜石をモデルとした下校時避難訓練が静岡県内で行われたのは、これが初めてのことだった。【動画を見る】

千浜小学校の下校時避難訓練は今も行われ、中川さんはアドバイザーとして携わっている