ハンセン病はなぜ差別されてきたのか
(山本典良園長)
「ハンセン病については、厚生労働省のパンフレットにこう記載されています。親や兄弟、姉妹と一緒に暮らすことができない。実名を名乗ることができない。結婚しても子供を産むことが許されない。一生療養所から出て暮らすことができない。死んでも故郷の墓に埋葬してもらえない。これは事実ですね。これが人権侵害だった。
ハンセン病は、らい菌による病気、感染症なんです。結核だったら結核菌ですね。新型コロナ感染症だったらコロナウイルスですね。そういう感染症です。慢性の感染症です。潜伏期間が5年です。
コロナ感染症(の潜伏期間)は、1週間前後、3日から1週間って言われてましたけど、ハンセン病、らい菌は5年から20年です。感染してから5年から20年後に発症するのですね。
そういう慢性の感染症だからこそ、隔離政策はいらなかった(不要だった)。なぜこのような、偏見差別を生むような疾患であったかというと、その原因菌、らい菌によるらい菌の特徴が大きく関与した。
らい菌というのは、31°C前後が増殖の至適温度です。31°C前後の環境でどんどん増える。31°C前後っていうのはどういうところかというと、外気に触れるところです。
外気に触れるところは、イコール目に見えるところです。目に見えるところでらい菌がどんどんどんどん増えていく。しかも、神経に親和性がある。神経を侵すのです。
人の体、生物の体で一番再生能力がないのが神経です。脳梗塞の後、麻痺が残った人はずっと麻痺が続きますよね。交通事故で脊損になった人はずっと麻痺が続く。一旦麻痺が起こると再生しない。
ですから、ずっと後遺症が残り続けるのが、ハンセン病、らい菌の性質によってそうなる。見た目にずっと残ってしまい、それが後遺症か、それとも新しく病気があるか分からないんです。
末梢神経障害があるから、熱いかどうか、分からない。ですからどんどんどんどん傷が増える。傷が増えると、例えば手とか足、指趾がどんどんなくなります。
菌はいないのに指趾がなくなる状態。それを一般の人が見て、どんどん指趾がなくなっているのに、病気が治っていると思えるかということです。そこが非常な、ハンセン病の癒しがたい偏見差別の大きな原因、理由なのですね」