あの時、して欲しかったことは…

あの日、妻を殺害し部屋に1人、職員に見つかるまでどのような気持ちで夜を明かしたのだろうか。そう尋ねると、男は背を丸めながら深く息をつき、目を閉じた。

「考える余裕もなくて、ぼーっと過ごしていました。解放された…という気持ちではないです」

事件前のつらさと、今のつらさを尋ねると。

「今の方がつらいです。誰とも話すことがない。すごく不安」

拘置所では眠れない日々で、毎日妻に手を合わせているという。そこで、私が今回の取材で一番聞きたかった質問を投げかけた。

――もし事件前に戻れるなら、周囲に『助けて欲しかったこと』『して欲しかったこと』はありますか?

男は少し考えた。返ってきた言葉は簡素なものだった。

「…して欲しかったことはないですね。自分たち自身のことだと思っていたから」

自らの選択で、まだ残されていたはずの夫婦の時間を失い、取り返しのつかない後悔が残った。しかし、あの時どうすれば良かったのか…わずか30分の面会時間では、男と私がその答えにたどり着くことはできなかった。