◆週刊誌にとって「売れる表紙」という存在
以上が、新聞記者当時の私の視点で、ここからは週刊誌の編集長になってからの現実です。
いま当時を振り返って、ジャニー氏の性加害問題について、NHKを含む在京キー局や文春以外の雑誌などの「防波堤」になったのは、間違いなくジャニーズ事務所のスターたちです。それは彼らが意図的に守ったということでなく、結果的にそうなったのですが、ここにも二つのポイントがあります。
一つは指摘されている通り、経済的価値です。私は編集長当時、サンデー毎日の表紙にジャニーズ事務所のタレントさんを積極的に載せました。正直に言います。それは「売れる」からです。雑誌の表紙は、書店やコンビニの棚を飾りますから目につきやすく、芸能事務所にとってはタレントさんの宣伝になるので、多くの売り込みがあります。
ただ、ファンの多いタレントや俳優さんは別格で、逆にこちらからお願いすることが多く、ライバル誌にしか登場しなかった、ある俳優さんの事務所には、私が直接交渉に行ったこともあります。
そういう事務所に比べると、ジャニーズ事務所は平等というか上手でした。幹部が、特に人気の高いタレントさんは、各誌にほぼ均等に割り振り、売れっ子ほど忙しい年末でも、正月の特大号用に時間をとってくれました。
今思えば、事務所側には、それでジャニー氏の問題などに切り込ませないという意図があったのかもしれませんが、そもそも「サンデー毎日」は芸能系のゴシップを書くことはほとんどなく、そういう取材体制も取っていませんでした。だから、ただ「協力的でありがたい」という感覚しかありませんでした。おめでたいと言われればその通りですが、これが正直なところです。
◆抜け落ちていた取材対象との距離感
もう一つは、タレントさんと知り合った後の、心理的側面です。これは5月のこの番組でもお話ししましたが、インタビューやテレビでご一緒するなどして、個人的に話をする機会が増えると、事務所の暗部を考えることを無意識に避けていたように思います。頭の片隅に性被害のことがあっても、この人をそんな風に見たら失礼だ、という思いです。
会見で井ノ原快彦氏が言った「得体のしれない、触れてはいけない空気」とも少し違う、目の前の人が尊敬の念を込めて面白おかしく語る「ジャニー像」に少し戸惑いながら、むしろ藤島ジュリー景子・前社長が言った「みんなが、そういう事があってスターになったのではない」という言葉を信じるような思いです。
それは今、冷静に考えると、スターを特別視して、被害者を二重に傷つける考え方でもあると気づくんですが、すみません。抜け落ちていたのは、取材対象との距離感を保つ大切さです。少なくとも報道に携わる者は、どの世界であれ、身内意識を持ってはいけないことを、改めて反省します。
以上が、7日の会見を見て、私が痛みとともに振り返ったことです。私はもう現場を離れましたが、後輩たちと会う機会があれば、頭(こうべ)を垂れて話したいと思いますし、今回のことで芸能報道は変わり、タブーはもう許されなくなるのだと思います。
◎潟永秀一郎(がたなが・しゅういちろう)
1961年生まれ。85年に毎日新聞入社。北九州や福岡など福岡県内での記者経験が長く、生活報道部(東京)、長崎支局長などを経てサンデー毎日編集長。取材は事件や災害から、暮らし、芸能など幅広く、テレビ出演多数。毎日新聞の公式キャラクター「なるほドリ」の命名者。







