◆半世紀にわたる一大「映像叙事詩」

描かれている時代は、1924年から1977年あたりまで。半世紀にわたる長い一大映像叙事詩です。時代が大きく変わっていく過程が描かれていきます

(1)当初は大混乱をきたしている中国です。清国が辛亥革命で1911年に倒れて中華民国が誕生しましたが、まだ整っていないので、地域でそれぞれ軍事力を持った「軍閥」が割拠し、内戦状態になっている中で、物語が始まっていきます。

(2)次に来るのは、日中戦争から日本の敗戦まで(1937~1945)。日本軍の侵略で、別の混乱が起こっていくわけです。今はちょうど8月、「終戦」の時期でもあるので、観るのにはよいかもしれません。当時の日本軍の話は、(どうしても悪役なので)ちょっと残念だなとも思うんですが、宴席に無理やりレスリー・チャンを呼んだ日本の軍人は、その踊りの美しさに圧倒され、心からの拍手を送るというシーンもあります。

(3)敗戦と同時に国民党政権にまた戻るのですが、これがまたひどい。傍若無人な人たちに対して「日本軍よりひどいじゃないか、お前たちは」という言葉が出てきます。歴史に対して、非常に誠実に描いているなと思いました。

(4)1949年、中華人民共和国が建国されます。京劇は、かつての王たちの階級を描くことが多く、「とんでもない」と弾圧を受けていきます。その時代で、全く扱いが変わるのです。自分たちがやっていることは変わらないのに、時代時代で権力者が変わることによって、主人公たちは翻弄されていきます。

(5)中国では1966年、文化大革命(文革)が起きます。神格化され引退しつつあった毛沢東が、現役の人たちに挑戦し、社会的混乱を引き起こした権力闘争です。統治機能がマヒし、1,000万人が死亡したとも言われています。かつての王たちの階級を描くことが多い京劇が徹底的に吊るし上げられていく中で、3人の間には大きな亀裂が走っていきます。

「覇王別姫」とは京劇の題名。舞台で「覇王別姫」を演じている2人が現実社会でも「覇王」と「姫」のような形に二重写しになっていくストーリーは素晴らしく、全然長く感じなかったです。