◆「優生思想の根絶を進めるしかない」
提訴しているのは38人だけで、圧倒的多数の人は裁判を起こしていません。理由は「障害のある方が多い」からで、自分が何をされたのかもよく分かっていない方もいます。しかも子供の頃に、という方も多いのです。
最大の争点は、不法行為から20年を経過すると請求できなくなる民法の「除斥期間」でした。長い間続いてきたこと、大人になってから分かったこともあって、2022年2月に大阪高裁が「除斥期間の適用を認めることは著しく正義・公平の理念に反する」と、初めて国の賠償責任を認めたのだそうです。
このインタビュー記事の一部を紹介します。徳田さんは「一番感じるのは人間としての尊厳を奪われたことへの怒り。自分がそういう目(強制的な不妊手術)に遭わされたことを知らされないまま放置されてきたことへの怒り」でもある。この2つを強く感じるんだそうです。
裁判になっても実名を明かしていない方が多く、これ自体が深刻な偏見や再差別が残っている証拠だと思う、と徳田さんはインタビューに答えています。全面解決するには、この優生保護法の根底にあった「優生思想の根絶を進めるしかない」と。
◆取材した記者のパッション
優良な人間の遺伝子をきちんと残し、そうでない人の遺伝子を排除していくという「優生思想」は、ナチスのユダヤ人虐殺の論理です。優生保護法という名前自体、とんでもない法律だったと分かります。
1948年から1996年までそんな法律が生きていたわけですから、日本の戦後はどれほどひどい状況だったか。せめて存命していると思われる、名簿にある3,400人の被害者には、国がきちんと聞き取り調査すべきじゃないか、と徳田さんは強く訴えています。
この記事を紹介したのは、取材した小林直記者の、徳田さんへの強い共感のようなものを、記事を読んでいて感じたからです。私もよく知っている記者ですが、記者としてのスタートが大分支局で、その頃から徳田さんと出会っているんです。
30年近くにわたって徳田さんとお付き合いする中で、シリーズとして改めて取り上げていこうと。そのパッションが静かな原稿の中に感じられたので、紹介しました。他のテーマで次回以降も、徳田さんのお話を小林記者は伝えていくそうです。
◆神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、RKB報道局で解説委員長。







